まず、「これをもちまして令和4年春場所が滞りなく終了いたしました」と放送があると、土俵周りに一斉に協会関係者や作業員、清掃員たちが集結した。再び館内放送で「すみやかにお帰りください。これから先は危険です。ご協力ください」と流れると、天井から吊屋根がゆっくりと下され始めた。そして四隅に吊るされていた赤、青、白、黒の房や幕が外される。そして、清掃員が桝席に散ると、一斉に座布団を一カ所に向かって投げ始めたのだ。若隆景が優勝を決めた瞬間にも舞わなかった座布団が飛び交い、その手際に帰路につこうとしていた観客から歓声が上がったほどだった。

 その光景を見ていた初老の男性のひとりは、「今日の一番は座布団が舞ってもよかったかな」とポツリ。入り口で配られる取組表には「座布団や物を投げて人に怪我をさせた場合は暴行罪、傷害罪に該当する場合があります。絶対に投げないようにお願いいたします」と書かれており、禁止行為なのは明白だが、それでもコロナ前は大一番で番狂わせがあれば座布団が舞っていた。コロナ禍を経て、そうした観戦スタイルが大きく変わったのかもしれない。若隆景と高安の優勝決定戦での観客からの大きな拍手が、「新しい相撲観戦様式」ということか。

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