放送作家、タレント、演芸評論家で立川流の「立川藤志楼」として高座にもあがる高田文夫氏が『週刊ポスト』で連載するエッセイ「笑刊ポスト」。今回は、緊急入院から復活した松尾貴史についてつづる。
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松尾貴史。大阪芸術大学を出ているアートで器用で人をうならせる男。
松尾が病気をして大変で、最近また仕事をしだしたと聞いたので顔も見たくなり、私のラジオ番組で声を掛けたらすぐに来てくれた。聞けば昨年暮れ、芝居をやっている最中に苦しくなり病院へ行くと「すぐ緊急入院です」と言われてびっくり。ICUに入りCTスキャンを受けたら「肺塞栓症」と診断されたそうな。お芝居『鴎外の怪談』も好評で全国をまわる予定も入っていた。辛い入院生活にもたえている時、一本の電話。なんと『鴎外の怪談』で、紀伊國屋演劇賞の個人賞に選ばれたとか。苦しい闘病中にこれはいいクスリになったろう。演劇人としては一番嬉しいはずだ。
この賞以外にも私には嬉しいことが。いつも楽しみに見ていた「週刊朝日」の“山藤章二の似顔絵塾”。山藤画伯が“ブラック・アングル”と共に筆をおくと聞き、全国の似顔絵好きはずいぶんガッカリしたろうなと思っていたところへ「塾は続行します。二代目塾長に松尾貴史さんが決まりました」の吉報が届く。今はまたあの人気コーナーが続いている。ここから今まで一体何人のプロのイラストレーターが出ていったことか。
私の周りではたけしの『新・情報7daysニュースキャスター』は終わるわ、志の輔の『ガッテン!』、古舘伊知郎の『にっぽん人のおなまえ』は終わるわ「似顔絵塾」も、と思っていたところこれはなによりいい知らせ。
「キッチュ」というのは芸名だと分かっていたが、「松尾貴史も芸名」だと言う。あるテレビ番組用に若き日キッチュとつけ、番組が終わったので他に何か名前を。色々きくと芸の世界では母音が「ア」(A)の人が成功すると。曰く「たけし」「タモリ」「さんま」「談志」「三枝」。足していいなら「タカダ」。芸能に関して縁起がいいんだとか。それで付いた「まつお たかし」なのだ。何ごとにもキッチリ計算済みの男。
1980年代、私が作家をやりながら落語を本気でやっていた頃、山藤章二プロデュースで毎年紀伊國屋ホールで『立川藤志楼vs高田文夫 ひとり時間差落語会』を元祖チケットの取れない落語会としてやっていた。ゲストのキッチュが『朝まで生テレビ!』の全キャラクターを演じて大喝采。大島渚、野坂昭如、田原総一朗……これで一気に世に出た。30年つづいた山藤宗匠の句会「だくだく会」のメンバーで玉置宏やたい平らと一緒によく駄目な句も詠んだ間柄。元気になってよかった。ICUの先輩としてそう思う。
イラスト/佐野文二郎
※週刊ポスト2022年4月8・15日号