富田林署逃走犯は自転車全国一周を装っていた

富田林署逃走犯は自転車全国一周を装っていた

高橋:警察署や刑務所から逃げた脱走犯は、スマホを持っていませんでした。たしかに、彼らがもしスマホを持っていたら、事件の展開も違ったかもしれません。

道尾:移動手段もレトロですしね。闇夜に海を泳いで、自転車でお遍路を巡って。現代の事件なのに、この本には最新のアイテムが全く出てこない。まさに向田邦子さんが好きだった言葉、「事実は、小説より奇なり」です。リアルの面白さをしっかり認識していないと、それを超えるフィクションは絶対に書けないと思っています。高橋さんの本を読むと、身に染みて実感しますね。現実をバカにしちゃいけない、って。

(了。前編から読む)

【プロフィール】
道尾秀介(みちお・しゅうすけ)/1975年、東京都出身。2004年『背の眼』でホラーサスペンス大賞特別賞を受賞し、作家としてデビュー。2007年『シャドウ』で本格ミステリ大賞、2009年『カラスの親指』で日本推理作家協会賞を受賞。2010年『龍神の雨』で大藪春彦賞、『光媒の花』で山本周五郎賞を受賞する。2011年『月と蟹』で直木賞を受賞。『向日葵の咲かない夏』はミリオンセラーに。近著に『貘の檻』『満月の泥枕』『風神の手』『スケルトン・キー』『いけない』『カエルの小指』『雷神』『N』などの作品がある。

高橋ユキ(たかはし・ゆき)/1974年、福岡県生まれ。2005年、女性4人の傍聴集団「霞っ子クラブ」を結成しブログを開設。以後、フリーライターに。主に刑事裁判を傍聴し、さまざまな媒体に記事を執筆している。『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(晶文社)、『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)など、事件取材や傍聴取材を元にした著作がある。最新刊は『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』(小学館新書)。

※週刊ポスト2022年6月10・17日号

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