教育再生会議で野依良治座長(中央右)から最終報告書を受け取る福田康夫首相。2008年01月31日(時事通信フォト)

教育再生会議で野依良治座長(中央右)から最終報告書を受け取る福田康夫首相。2008年01月31日(時事通信フォト)

 大学側には可哀想だが、簡便なオンデマンド講習でこれからも小銭を稼ごうとしていた大学の中には「詳細は文科省に聞け」とばかりにやけっぱちの終了宣言をサイトに貼り付けている大学もある。また「キャンセルは受け付けるが講習は開講する」という大学もある。急に止めるにも講習の講師やら諸々のスケジュールも押さえている手前、強行するしかないのだろう。もっとも、更新そのものが廃止のいま、わざわざ安くない授業料を払って必要なくなった講習を受ける教員も少ないだろうが。

「eラーニングには民間企業も食い込んでましたから、いろいろ影響あるんでしょう、システム構築に安くないお金を払ってたと思いますよ」

 教員免許講習もまたコロナ禍でオンデマンドやライブ配信によるeラーニングが増え始め、大手企業傘下のシステム会社も多数請け負っていた。

「でも大学はまだマシですね。機構やら財団やら、もっともらしい名前で教免更新を運営していた連中が一番最悪だと思います。全部がそうとは言いませんが、あれこそ天下りのための組織ですよ」

 あくまで彼の感想だが、その機構やら財団やらの中には早くもホームページを閉じて店じまいの団体もある。本当に教免更新とは何だったのか。当初の目的である、教員の質の向上とは何を目指していたのか。アフターケアがちゃんとしている仕事ならば、人気職業となってもよいはずなのだが、この間に生じた教員不足は深刻で、2021年度には全国の公立小中高校、特別支援学校で2558人の欠員が生じた。冒頭の教師が述懐する。

「私の時代は就職氷河期で教員採用試験は高倍率でした。それがいまや定員割れに近い地域もあります」

教員免許がなくても教職に就ける「特別免許制度」

 1990年代から2000年代、教員採用試験の倍率は高かった。教員免許をとっても教員になれない教員志望者は多かった。2008年の大分県の小学校教員採用汚職事件では娘や息子が教員に採用されるために成績を改ざんした教育委員会の元幹部らが逮捕されたが、いまやその大分県も小学校の採用試験倍率は1.4倍(2022年度)、全国の採用倍率も過去最低を記録した。まさか教員が足りなくなるとは国も思わなかったのだろう。

「少子化ですし、新卒は売り手市場ですからね、教員は不人気商売です。だからといって教員免許がなくても教職に就けるようにする、なんてのはどうかと思いますが」

 文科省が掲げた「教員として必要な資質能力が保持されるよう、定期的に最新の知識技能を身に付けることで、教員が自信と誇りを持って教壇に立ち、社会の尊敬と信頼を得ることを目指す」の達成も曖昧なまま廃止となる。制度が答申された当初の目的「不適格教員を排除する」も達成できたか不明なままだ。懲りずに文科省は「特別免許制度」の活用を通達、特別免許や臨時免許の緩和を図るとした。また東京都は教員免許がなくとも2年以内に取得することを条件に無免の教員志望者が教員採用試験を受験できるようにするという。

「そういうことじゃないんですけどね、教員不足は異常な労働環境がすべての原因です。それでもまあ、何の意味もない教免更新講習が無くなるのは本当によかった。導入に加担した連中は猛省すべきですよ」

 話しているうちに感情的な本音が漏れたのか、手厳しい発言。しかし、残念ながらその導入に加担した連中の中にはすでに責任のある立場から去ったり、あるいは加担したことすら覚えていない人物も少なくなさそう。時の流れは早く、すでにお亡くなりになっている方もいる。それを逐一責めるのもあれだが、今回の件をただ「発展的解消」でお終いにするのではなく、教員不足や混乱を招いた反省と検証はすべきだろう。

 ともあれ、7月1日から教員免許状更新講習制度は廃止。失効した方々の教員免許も復活する。教免更新は綺麗さっぱり「無かったこと」になる。

「お金返してとまでは言いませんけど、本当に何だったんですかね」

【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。社会問題、社会倫理のルポルタージュを手掛ける。

関連記事

トピックス

水卜麻美アナ
日テレ・水卜麻美アナ、ごぼう抜きの超スピード出世でも防げないフリー転身 年収2億円超えは確実、俳優夫とのすれ違いを回避できるメリットも
NEWSポストセブン
かつて問題になったジュキヤのYouTube(同氏チャンネルより。現在は削除)
《チャンネル全削除》登録者250万人のYouTuber・ジュキヤ、女児へのわいせつ表現など「性暴力をコンテンツ化」にGoogle日本法人が行なっていた「事前警告」
NEWSポストセブン
撮影現場で木村拓哉が声を上げた
木村拓哉、ドラマ撮影現場での緊迫事態 行ったり来たりしてスマホで撮影する若者集団に「どうかやめてほしい」と厳しく注意
女性セブン
5月13日、公職選挙法違反の疑いで家宅捜索を受けた黒川邦彦代表(45)と根本良輔幹事長(29)
《つばさの党にガサ入れ》「捕まらないでしょ」黒川敦彦代表らが CIA音頭に続き5股不倫ヤジ…活動家の「逮捕への覚悟」
NEWSポストセブン
5月場所
波乱の5月場所初日、向正面に「溜席の着物美人」の姿が! 本人が語った溜席の観戦マナー「正座で背筋を伸ばして見てもらいたい」
NEWSポストセブン
氷川きよしの白系私服姿
【全文公開】氷川きよし、“独立金3億円”の再出発「60才になってズンドコは歌いたくない」事務所と考え方にズレ 直撃には「話さないように言われてるの」
女性セブン
田中みな実、寝る前のスマホ断ちで「顔のエラの張り出しがなくなった」 睡眠の質が高まり歯ぎしりが軽減された可能性
田中みな実、寝る前のスマホ断ちで「顔のエラの張り出しがなくなった」 睡眠の質が高まり歯ぎしりが軽減された可能性
女性セブン
AKB48の元メンバー・篠田麻里子(ドラマ公式Xより)
【完全復帰へ一直線】不倫妻役の体当たり演技で話題の篠田麻里子 ベージュニットで登場した渋谷の夜
NEWSポストセブン
”うめつば”の愛称で親しまれた梅田直樹さん(41)と益若つばささん(38)
《益若つばさの元夫・梅田直樹の今》恋人とは「お別れしました」本人が語った新生活と「元妻との関係」
NEWSポストセブン
被害者の平澤俊乃さん、和久井学容疑者
《新宿タワマン刺殺》「シャンパン連発」上野のキャバクラで働いた被害女性、殺害の1か月前にSNSで意味深発言「今まで男もお金も私を幸せにしなかった」
NEWSポストセブン
広末涼子と鳥羽シェフ
【幸せオーラ満開の姿】広末涼子、交際は順調 鳥羽周作シェフの誕生日に子供たちと庶民派中華でパーティー
女性セブン
NHK次期エースの林田アナ。離婚していたことがわかった
《NHK林田アナの離婚真相》「1泊2980円のネカフェに寝泊まり」元旦那のあだ名は「社長」理想とはかけ離れた夫婦生活「同僚の言葉に涙」
NEWSポストセブン