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日本には2人だけ、ラブシーンを調整する「インティマシー・コーディネーター」

俳優が安心して演じられるように全面的にサポートを行う「インティマシー・コーディネーター」は日本ではまだ2人のみ(写真/GettyImages)

西山ももこさん。俳優が安心して演じられるように全面的にサポートを行う「インティマシー・コーディネーター」は日本ではまだ2人のみ(撮影/浅野剛)

「次のキスシーンでは舌を入れることになっていますが、そのままで大丈夫ですか?」。ある映画の撮影現場。主演俳優の女性に、スタッフの女性が質問する。俳優は少しためらい気味に、こう答える。

「事前打ち合わせではOKと答えたけれど、やっぱりそこまではやりたくないんです」
「OK。監督に伝えますね。ほかに嫌な部分はありますか?」
「そうね……胸にキスをされるのもちょっと嫌」
「お腹や太ももへのキスならどう?」
「それはどちらも大丈夫」

 意思確認が終わると、女性は監督のもとに向かう。俳優の意向をはっきりと伝え、代案を話し合う。監督や撮影スタッフ、出演者の事前確認が終わると、撮影リハーサルに入る。

「これからリハに入ります! 最小限の人数でお願いします。それ以外のかたはスタジオの外に出てください」

 くだんの女性の大きな声が響き渡ると、スタッフが次々にスタジオ外へと歩いて出る。少人数の静まり返ったセットで、ようやくベッドシーンの撮影が始まった──この女性の職業は「インティマシー・コーディネーター」。映画やドラマの撮影現場に第三者的立場として参加し、制作と俳優の間に立って、キスシーンやベッドシーンなど、性的なシーンの撮影を調整する。

 疑似セックスや入浴、キスなど肌の露出・接触があるシーンは英語で「インティマシー・シーン(親密なシーン)」と呼ばれる。インティマシー・コーディネーターはそうした現場に仲介役として入り、俳優が安心して演じられるように全面的にサポートを行う。日本ではまだ認知度が低く、2人しかいない。その1人で日本初のインティマシー・コーディネーターの西山ももこさん(42才)が説明する。

「私たちはヌードや性的描写のある撮影現場で、監督が描きたいイメージを明確化し、俳優側との橋渡しをします。俳優が萎縮せずに、嫌なことは“ノー”と言える環境を作るのも重要な役割で、双方が納得する作品作りのサポートを行います」

 ここ最近、映像業界では性暴力の被害が相次いでいる。3月には映画『蜜月』の榊英雄監督(52才)から、「性行為を強要された」と訴える女性4人の告発記事が週刊誌に掲載された。榊監督は報道の一部を認め、謝罪している。

 4月には、有名俳優が実名で声を上げた。水原希子(31才)が、同じ週刊誌の取材で、Netflixオリジナル映画『彼女』で梅川治男プロデューサー(61才)から、性的な要求を受けたと語っている。

《撮影が始まる直前、梅川氏から性的なシーンでアンダーヘアを出すようにと要求されました。オファーの段階ではそうした説明はなく、出演が決まってから突然話を持ち出された。アンダーヘアを出すことが出演の条件になるのなら、最初からオファーは受けていませんでした》

 これらは撮影現場で行われる性暴力のごく一部にすぎない。表に出ず、葬り去られる性暴力をなくすため、あらかじめ調整するのが、インティマシー・コーディネーターの仕事なのだ。

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