小林さんは野口さんには「先が見えているような、不思議な能力があると思う」と語る

小林さんは野口さんには「先が見えているような、不思議な能力があると思う」と語る

──中間がないんですね。

「そうですね。たとえば野口さんと飲むと大抵の場合、12時間超えの長丁場になってしまう。『よし、今夜はとことん行くぞ!』といった感じでスイッチが入ってしまうわけです。これは野口さんというよりも、野口さんと私の関係性に中間がないというのが正確なのかも知れません。

 だから、マネージャーをしていても『うまく適当にやっていく』とはならずに、『辞めるか、辞めないか』、執筆についても『書くか、書かないか』、最後には『生きるか、死ぬか』といった極端な世界に入り込んでいってしまう。互いに他の人とはこうはならないので、野口さんと私が接触すると陥る特殊な関係性だと思います」

──本書の前半は野口さんの半生が取材から浮き彫りになりますよね。外交官のお父さんの仕事の関係で世界を転々とした上、全寮制の学校に入って、そこで様々な苦労を経て……と、とにかくハードモードで驚きました。ただ、野口さん自身も様々な挫折を経験しておられるなか、人に対して諦めることを許さない性格でもある。ということは自分に対してもそうだと思うのですが、野口さんはそれをどう培ってこられたと思われますか?

「生まれ持った気質もあると思いますが、『やりたい』と思ったことを次々に実現していく中で培われた能力があると感じましたね。まだ現実になっていないことも、あたかも現実になっているように捉えることのできる強烈な思い込みと言ってもよいかも知れません。

 叶う前でも本人には結果が見えているから、信じて疑わない。何かをやろうとしてそれが叶うまで絶対諦めない。あと、これが一番凄いんですが、彼はそれを叶ったことにするんですよ。一旦叶ったことにしておいて、現実をそっちに合わせるといったやり方を結構しますね。

 たとえば、富士山の清掃活動。富士山に関係する自治体は多数あり、パートナーシップが大きな課題でした。そこで野口さんが記者会見をするということで、それぞれの自治体の首長に声をかけたんです。そして当日を迎え、記者会見の開始直前に首長たちに資料を配るんですが、そこには富士山の環境問題について自治体間で連携していく旨を約束することが明記され、末尾には首長たちの名前がすでに記載されているわけです。

 さらに記者会見には首長たちの席も用意されていて、野口さんに『さあさあ』と促されるままに席につかざる得なくなってしまいまして。『こんなのは聞いてない!』と怒る首長さんもいましたが、もう後の祭りで。

 野口さんが飄々と『いや、あの~、本日はこうして富士山に関係する市町村長の方々にお集まりいただき、感謝しております。これまで連携が課題だったわけですけど、なんと本日をもって首長さんたちのご決断でみんなで富士山を守っていくとなったと。これは歴史的なことであり、ご英断をなされた市長、町長、村長の皆様方に心から感謝申し上げる次第であります』と始めてしまって。

 でも、最終的にはマイクを渡された首長の皆さんも『え~、そうですね。野口さんの呼びかけによりこうした取り組みが進むことはまことにありがたいことだと』となってしまい、それが実際にニュースとなり、その後の富士山清掃に大きく寄与することになるわけです」

──それは周りが大変そうですね。

「そうですね。ただ、野口さんは清掃活動でもネパールの教育支援でも一旦はじめた活動を決して投げ出さない。継続してコツコツと続ける。その姿勢があるから周りの方も彼の応援を続けるのだと思います。

 でも、矛盾するようですが一方で野口さんは『やっぱり、やめた』ができる人でもあるんです。何かことを進めていても『違うな』と思うと『やめる』という決断ができる。

 たとえばエベレストへの挑戦の時。野口さんは3回目の挑戦で登頂に成功していますが、2回目の時には標高8350メートルまで辿り着き、高度差は山頂まで約500メートルのところまで迫ったわけです。体調も絶好調。ただ、天候が危うい。登ればその時点で七大陸最高峰世界最年少記録が達成されるわけで、『イチかバチかやっちまうか』と山頂に向けて突っ込もうと迷う。でも、最後には『いや、ちょっと待て、冷静になれ』と登頂をやめる決断を下せるわけです。『また来年くればいい』と。

 政界へのチャレンジなんかもそうです。何度も国政選挙への出馬が取り沙汰されましたが、最終的には出ない決断をしている。エベレストに25歳で登頂し世に出てから四半世紀近く、唯一無二の存在として生き残っているのも、そういった柔軟さがあるからだと感じています。

 あと、これが大きいと思うのですが、野口さんはかっこ悪い自分をさらせる強さもある。たとえば今回の『さよなら、野口健』の執筆については『俎板の鯉になるから好きに書いていいよ』と言われていたこともあり、それこそ野口さんのかっこ悪いところも一切の遠慮なく、まさしく野口さんと差し違える覚悟で書いたわけです。

 さらに野口さんは出版されるまでは一切見ないと約束して本当に見なかった。こちらもさすがに不安になるわけです。『本当に大丈夫かな』『ブチ切れないかな』と。そして、出版後に本を読んだ野口さんは『好きに書いていいって言ったけど、本当にこんなに好きに書く奴がいるか。普通はもっと遠慮するものだろ』と目を丸くした後、爆笑していました。

 ただ、その後に一言、『この本の感想は読者の方に委ねた方がいいね。だから当事者である僕は正式な感想は発信しない』とつぶやいていました。僕が逆の立場だったら野口さんのような対応はできないと思いましたし、あらためて野口健さんという方は、相当ハイレベルな規格外の『変人』だなと感じ入っているところです。でも、『変人』ほど面白い人間は僕にとってはいない。これからも『変人』を描いていきたいと思いますが、野口健さんを超える『変人』と果たしてご縁をいただけるか不安ではあります(笑)」

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