【ケース2】根も葉もない嘘で客を奪う女
私と祥子は美容師学校の同期です。同じ年ということもあり、すぐに仲よくなりました。お互いに自分の店を開く目標があったので、修業中も励まし合って乗り切りました。
そして4年前、45才のときに、美容院をオープン。最初はそれぞれに店を出そうとしていたのですが、祥子から、
「いい物件を見つけたんだけど、開業資金が足りないの。よかったら、共同経営しない?」
と持ち掛けられたんです。確かに場所も広さも好条件。それで提案をのんだんです。
家賃や光熱費は、折半することにして、祥子との間に契約書も作成。あとで余計な争いが起きないよう、細心の注意を払いました。ところが、意外なことで裏切られました……。
開店して数か月。私が担当したお客さんがSNSで店の情報を拡散してくれ、私に指名が入るようになったんです。その影響で、最初は祥子にもお客さんがついたんですが、なかなか常連にはならなくて……。
私もいい気になっていたのかもしれません。
「腕を磨けばお客さんはつく」
と、祥子にアドバイスをしたり、私のお客さんを回してあげたりしたのですが、それが逆に祥子を怒らせてしまったようです。表面上は笑顔で、
「いつも悪いね、ありがとう」
と言っていたのですが、裏で、
「私が担当していたお客さんを取られた」
「給料が支払われなかった」
などと私のお客さんに嘘を吹き込んだり、SNSに悪評を書き込んでいたんです。
そんな不穏な空気が流れれば、お客さんも不信感を抱き、店から離れ始めます。開店費用を払い終わっていないいま、お客さんは1人でも大切にしなければならないのに、まさか味方から背中を刺されるとは思いませんでした。とはいえ、祥子の店でもあるから、自分にも害が及ぶわけで……。
いまは誰も来ない店内で、祥子と2人、会話もなく静かにけん制し合っています。(49才・自営業)
【精神科医が解説】自信を持たせて要望を探る
「自分の能力には自信がないのに相手より優位に立ちたいタイプは、自分が努力して上を目指すのではなく、相手を下に落とそうとする傾向が。この場合、“あなたも共同経営者だ”と自覚を促して自信を持たせ、どういう状況を望んでいるのかを冷静に話し合って整理するのがおすすめ」(井上さん)
【プロフィール】
精神科医・井上智介さん/産業医・健診医。著書に『「あの人がいるだけで会社がしんどい……」がラクになる 職場のめんどくさい人から自分を守る心理学』(日本能率協会マネジメントセンター)。
取材・文/前川亜紀 イラスト/高田真弓
※女性セブン2022年8月11日号