ベストセラー作家・橘玲氏が

ベストセラー作家・橘玲氏さん

宇都宮:はい。夜の街に出て自立している男性がかっこいいと思ってしまうという、大学生にありがちな勘違いといいますか……。だけどまあ、ホストに通うとなると八王子であってもある程度はお金が必要なので、夜の街で働いていたんですが、21歳くらいから「いつまでもこんな生活はできないだろうな」と思うようになって。

橘:ふつう21歳だと、これからって思うんじゃないですか?

宇都宮:いま思うとそうかもしれないんですが、当時は「もう限界だ」と(苦笑)。だけど夜の街自体はすごく楽しいから、ずっと身を置いていたい。いろいろ考えた結果、「じゃあ、盛り場のノンフィクションを取材する書き手になろう」と思って風俗系の新聞を出している出版社に入って、今に至ります。

男は「セックストピア」の住人

橘:もともと書くことに興味があったんですね。記者の道に転身できて本当によかったですね。

宇都宮:自分でも、ぎりぎりのところだったと思っています。記者になってからは、さっき話題に出した秋田の事件のほかにも、秋葉原の通り魔事件とか、東海道新幹線の殺傷事件とか、事件を中心に取材しているのですが、いつも考えるのは動機のこと。どの事件も背景には単純に説明できない理由やしがらみがあると思うのですが、ひとつ言えるのは男性が起こす事件と女性が起こす事件って、明確に動機が違うと思っていて……。橘さんはそういった事件に「性差」はあるとお思いですか?

橘:そもそも殺人犯や重罪犯のほとんどは男ですから、男の方が生得的に攻撃性が高いのは間違いない。あと男の場合、犯罪の動機として重要なのは「メンツ」と「所有欲」だとされています。「痴情のもつれ」が動機とされる事件も、男が加害者である場合は、自分の所有物(だと思っていたもの)を奪われることへの抵抗感が根底にあると思います。

宇都宮:確かに、「別れを切り出されて逆上して」というのはよく聞くかもしれない。逆に女性は、それこそ歌舞伎町ホスト殺人未遂の「好きで好きで仕方ない」という動機のように、相手に尽くして、共感したのに、相手から思った反応が得られないときに「なんでわかってくれないの!」と破滅への道を選ぶ傾向があるように思います。

橘:ふたりで築いてきたはずだった「共感の物語」が、実はひとりよがりだったことに気が付いてしまったという……。

宇都宮:まさにそう!「浮気をして私を裏切ったことが憎い」というような話じゃないんですよね。先ほどのホスト刺傷事件の犯人が書き残した日記のようなメモには「一緒にひとつになって、宇宙に溶けあおう」といったフレーズもあったりして・・・・。思い詰めた末にストーカーになってしまう、というケースも女性には意外と多い。だけどそこで逆上して殺してしまったりはしない。ただただ、共感してほしい、気持ちを受け止めてほしいという。

橘:女は「1対1」の関係性を大事にするから、濃密な人間関係の中で犯罪が起こりやすいのかも知れませんね。反対に男は、集団のヒエラルキーの中で「下に落ちる」ことがものすごく恐ろしい。他者からバカにされたり、軽んじられたりすることが怒りに直結するんです。高校の頃は、他校の不良にガンを飛ばされて、殴られたりして理不尽だと思いましたが、あれはイヌの縄張り行動と同じで、メンツを守るためのものですね。

宇都宮:いや、私の地元にも怖いレディースのお姉さんたちがいましたよ(笑い)。でもそれはかなり特殊な例か……。そう思うと、男性にとっての「メンツ」と「所有欲」が女性にとっての「共感」に相当すると言えるかもしれません。ホス狂いの子もホストの「共感」が欲しくて、無理をしてでも大金を使う。

橘:風俗にも男女の性差が現れてますよね。男は一人の女の子を指名し続けて貢ぐというより、新しい子が入れば次々と乗り換えて行く。

宇都宮:たしかに、「新人」ってだけで指名される世界ですよね。一方で女の子は王子様を一人決めて、その人のためにひたすら貢ぎ続けて、気持ちを通い合わせることを求める。正反対なのはなんとも不思議に感じます。

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