「炎上事件」を知らず繰り返す若者たち
炎上には不利益しかなく、あえてやる理由はない。それにも関わらず繰り返されるのは、単純に「そのような行為を撮影、投稿したら炎上する」ことを知らないためではないか。
筆者はSNSのリスクやトラブル、安全な使い方などをテーマに講演活動を多数行っている。過去に学校で炎上をテーマに講演を行った際、その当時メディアを賑わせていた炎上事件を例として取り上げたことがある。
「この炎上事件、有名だから知っているよね」と聞いたところ、目の前にいた学生が驚いた顔をして首を横に振ったので、こちらの方が驚いた。その場にいた学生に聞いたところ、知らない学生が少なくなかった。
若者たちは新聞やテレビなどのニュースを見ない。ネットニュースでも、SNSでシェアされたものしか見ないという学生は多い。若者がSNSにシェアするのはエンタメ系やスポーツ系中心で、社会面のニュースが対象になることはまずない。
勤務する大学で講義の折に聞いたところ、新聞をとっている学生はゼロ、ニュースアプリでニュースを見ている学生も数名程度だった。最近でこそ炎上についての認知度が上がってきたが、それでも知らない学生はいる状態だ。
つまり、いくら報道されていても当事者たる若者たちが炎上事件をニュース経由で知ることはほとんどないのだ。どのような投稿をすれば炎上するか、炎上するとどうなるかも知らないまま。だからこそ、警戒しないで同じような投稿をしてしまうのだ。
一方で、一般の人達はそのような炎上が続くと、他にも同じような投稿があるかもと積極的に探すようになる。検索数が多いほど、閲覧回数が多いほど、検索エンジンでもSNSでも「おすすめ」として多くの人の目に触れやすくなる。それを見た人がまた、さらに検索してと繰り返される。それ故、問題ある投稿が探し出されて、同じような炎上事件が続くというわけだ。偶然だけで寿司チェーン店の同じような炎上がここまで続くことはないだろう。
今回の一連の炎上の中には数年前のものも混じっており、そのときには炎上しなかったものや、企業の広報が「既に解決済み」と述べたものもある。つまり、同じ動画でも炎上するときとしないときがある。注目度が高まっている時期は炎上しやすくなっているため、古いものでも掘り返されることで大炎上につながっているのだ。
いきなり不特定多数が見る場に自由に投稿してしまうと、このような炎上事件につながりやすくなる。そこで、最近のInstagramやTikTokでは未成年を保護する機能が強化されており、どちらも16歳未満の新規ユーザーはデフォルトで非公開となり、TikTokではおすすめ表示もされなくなっている。しかし子ども自身で設定を変えることは容易であり、投稿内容に関する指導や見守りなどは必要だ。
炎上してしまうと深刻な影響を受けるため、近年では学校の情報リテラシー授業などで取り上げるところもある。多くの教員や保護者世代は詳しくないため、実施は学校と教員によるところが大きい。しかし、炎上した場合の影響は甚大であり、教員や保護者世代も炎上のリスクについて学び、子ども世代に伝えていくべきだろう。
そもそも周囲に迷惑をかける不適切行為は決してするべきではない。同時に、SNSに投稿したものは不特定多数が見る可能性があること、炎上したらデジタルタトゥーになり、罰せられる可能性があることは知っておくべきだろう。しかし若者世代はそのようなことを知らない可能性があるので、周囲の大人は積極的に伝えてあげてほしい。