日本ではもともと国を挙げて規制する方向性が見られなかった
日本の指針値がアメリカと比べて緩いことは前述したが、アメリカ以外の国と比較しても同じことが言える。
「デンマークは規制値をPFOS、PFOA、PFHxS、PFBSの合計値が1Lあたり2ngとアメリカよりもさらに低い数値を設定しています」(植田さん)
環境省らは指針値設定に向けて国内外の情報を収集していると発表しているが、動きは遅い。植田さんが続ける。
「海外や国内の世論が盛り上がったため、政府は専門家会議を立ち上げていますが、指針値の厳格化など具体的な対処は何もなされていません。また、環境中の水汚染に対しては“その水を飲まないように”という注意喚起をするだけに終始し、健康被害の調査は手つかずです。
使用制限も4700種類のうち国際条約で禁止措置が取られたPFOSとPFOAだけが対象で、代替物質として使用されている別の種類のPFASについての規制はなされていない。危険性は同様であるにもかかわらずです。政府の姿勢からは、積極的に汚染を減らしていくという決意が感じられません」
PFAS問題に詳しい、京都大学大学院医学研究科准教授の原田浩二さんもこう指摘する。
「日本では、もともと国を挙げて規制するという方向性が見られなかった。世界的にPFASの製造・使用を禁止したストックホルム条約(2009年)に批准しているため、PFASの新規製造・使用を禁止するなどの措置は行いましたが、すでにある残留汚染の調査や除去はほとんどされていないのです。専門家の間でも『終わった問題』との捉え方があるくらいです」
日本の指針値が緩い理由については、こんな見方もある。
「汚染源や過去の使用実績をさかのぼって調査した結果、化学メーカーや食品包装会社などの企業がPFAS汚染を引き起こしていた場合、企業の責任問題につながることもありえます。それを懸念して、国が躊躇している可能性も考えられます」(原田さん)
※女性セブン2023年4月20日号