ただし今回の新宿歌舞伎町「東急歌舞伎町タワー」は民間なので仕方がない。それでどうなろうと最終的には「経営側の事情」でしかない。しかしこの「ジェンダーレストイレ」という名の「男女共用トイレ」の流れは公的にも模索されている。
男女別トイレになった歴史
渋谷区はいち早く日本財団と手を組み「THE TOKYO TOILET」プロジェクトとして区内17箇所に公共トイレを設置した。クリエイター16人による「バリアフリー」や「オールジェンダートイレ」とのことで、男女、そのどちらでもないと自認する人など、誰もが使える個室トイレも含まれる。西原一丁目公園など場所によっては男性専用の小便器もないので、大小および男女の事情関係なく「男性が使ったあとを女性が使う、あるいは女性が使ったあとを男性が使う」共用トイレになっている。
しかし多くの識者はもちろんSNSのユーザーなども「男女」の問題と同時に「防犯」の問題を指摘している。また、渋谷区の「オールジェンダートイレ」に限れば子ども、とくに女児の心配をする母親もあった。先の商業ビルとは違い警備員が常に常駐しているわけではない。常駐していたとしても、監視カメラがあったとしてもプライバシーの問題で限界のあることは「多目的トイレ」(現在は「誰でもトイレ」とも)における一連の騒動が記憶に新しい。
1954年、地域によっては学校のトイレがまだ住民の公衆便所としても使われていた時代、小便器で用を足していた男が個室に入る女児を見て興奮、いたずらしようとして泣き出したため殺害した「文京区小2女児殺害事件」など多くの「共用トイレ」における事件を経て、多くが「男女別」のトイレになった。暴行や殺人には至らなくとも、のぞき行為や盗撮など、本当に多くの事件が繰り返されてきた歴史が厳然としてある。
なぜか「ジェンダーレス」実現のために、これまで多くの人たちが声を上げて「女性専用トイレ」を要望してきたはずの歴史が「男女共用トイレ」に戻ってしまった感のある一連の騒動。過渡期の実験的な面はあるとはいえ、ジェンダー平等の大切さは認めながらも「やはり男女は分けてもらわないと」「女性専用トイレをなくさないで」という意見が切実にあることも、ジェンダー同様「大切」のように思うのだが。
【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)日本ペンクラブ会員、出版社勤務を経てフリーランス。社会問題、社会倫理のルポルタージュを手掛ける。