復活後の盛岡文士劇は、毎年年末に盛岡劇場で上演。現代劇、口上、時代劇の3部構成で、現代劇には盛岡弁を随所に取り入れるのが特徴だ。毎年チケットが完売するほど、盛岡市民に深く愛される冬の風物詩として定着している。今年の公演で27回目を数え、文春文士劇の上演回数を上回ることとなった。出演するのは基本的に盛岡にゆかりのある文人だが、ある意味、ステータスとなった盛岡文士劇への出演を熱望する中央文壇の作家は後を絶たない。今回の東京公演に出演したのは井沢氏をはじめ、内館牧子氏、金田一秀穂氏、ロバート・キャンベル氏、羽田圭介氏といった面々だが、過去には林真理子氏や平野啓一郎氏なども出演し、客席を沸かせている。
作家やアナウンサーなど、文人を中心として構成される文士劇の魅力とは何だろうか。
「もちろん、俳優と違って演技経験のない素人がほとんどなので、舞台上でセリフが飛んでしまうこともあります(笑)。時にはアドリブを入れるなど、自由な気風があるのが魅力のひとつでしょう。そればかりでなく、突然、諸事情でキャストが出演できなくなった時にリカバリーできるのも盛岡文士劇の力量。例えば、脚本を担当している道又力くんは役者を兼任しているので、抜けた役を代演するなど、誰かが欠けた時にも必ずうまくつなぐことができる。いわば、四半世紀もの間に培ってきた独特のノウハウが、盛岡文士劇には蓄積されているんです」(井沢氏)
こうした点に着目したのが、盛岡文士劇に出演経験のある林真理子氏だ。林氏は現在、日本文藝家協会の理事長を務めている。同協会は来る2026年に発足100周年の節目を迎え、その記念事業として協会員による文士劇を予定しているという。
「実は、この100周年記念文士劇の全体進行と脚本の作成に白羽の矢が立ったのが、道又力くんなんです。中央で文士劇が復活するのに、彼の力量が認められたばかりでなく、盛岡文士劇の持つノウハウが求められるというのは、誇らしいことです」(井沢氏)
今回の東京公演は、岩手県盛岡市と東京都文京区が友好都市を提携して5周年を記念したもの。石川啄木が演目の題材に選ばれたのは、彼が盛岡市に生まれ、文京区で生涯を終えたという縁で結ばれていたからだ。
盛岡文士劇からノウハウを学んで行われる100周年記念の文士劇はいったいどんな演目になるのか。どの作家が、どのような芝居を見せてくれるのか。今から楽しみに待ちたい。