警察への違和感
こうして、谷口氏の取材の日々が始まった。初めに彼を動かしたのは、「なぜ?」という疑問。そして、次に湧いてきたのが、警察への違和感だ。
「ご遺族は藁にもすがる思いで、SNSを使い、必死に情報提供を呼びかけています。それは本来なら、警察がやるべき努力ではないでしょうか。取材のため何度も別府に足を運んでいますが、市内でも指名手配書をほとんど見かけなかったり、貼ってあっても見えにくい位置だったりして、もう少し警察もやりようがあるんじゃないかと感じています。
現場には、Aさんを偲ぶ人たちが花や飲食物をお供えしていました。でもある日、『通行の妨げになるから、ここに物を置かないでください』と市役所の張り紙がされていて驚きました。そこは別府で将来を夢見た学生が卑劣な行為によって命を落とした場所。絶対に風化させてはいけない場所です。もっと遺族に寄り添った対応ができないのか……」
初動捜査が甘かった
谷口氏は、警察の初動捜査にミスがあったのではないかと指摘する。
「警察は、緊急配備をすぐさま敷いたと言いましたが、その具体的な方法や時間については捜査内容を理由に回答を控えています。事件後すぐに市内で一斉検問や重点的な捜査を行っていれば違う結果になっていたかもしれません」
警察は5月26日、八田容疑者が事故当時に着ていたと見られるシャツなどを公開した。シャツは事件2日後に現場から約2キロ離れた海岸付近で発見されたものだ。
「シャツが発見されたのは、八田容疑者の姿が最後に捉えられた場所のすぐ近くにあるヨットハーバーのかなり目立つところでした。事件発生から2日間その場所を調べていなかった点は、初動捜査のミスだと指摘されても仕方ないでしょう。事実、私がそれを警察に質問したところ、歯切れの悪い回答でした。
しかもそのシャツが公開されたのは、事件発生から11か月経ってから。つまり、それまで公開されていた防犯カメラの映像とは異なる服装で逃走していたということです。当日取材した地元メディア同様、対応に首をかしげたくなりました」