そして近年、“空白期間のリスク”という意味で大きくなっているのが、「TVerや自社系動画配信サービスの再生数が得られない」こと。2020年代に入って以降、ドラマの配信再生数は右肩上がりで増え続けているだけに、「空白期間を作って配信再生の習慣を失ってしまうのはもったいない」ということなのでしょう。また、自社系動画配信サービスの有料会員も、「見るものがないから解約しよう」と思われかねないだけに、連ドラ最終月に新作ドラマを放送(同時配信)することの重要性は増しているようです。
実はこのところ深夜ドラマでは、数週間から1か月程度スタート時期を変える(放送期間をずらす)ような編成が少なくありませんでした。「ゴールデン・プライム帯の連ドラがない時期は深夜ドラマでも目立つチャンス」「ドラマが好きな視聴者に喜んでもらおう」という狙いは以前からありましたが、大きく変わったのは配信再生の重要度が増したこと。
深夜ドラマでも1話あたり100万再生を超える作品が誕生しているほか、「自社系動画配信サービスに新作を供給する」というタスクもあるなど、配信再生数の獲得を前提にした制作が進められています。そもそも配信で見てもらう連ドラの放送開始時期を「一斉スタート」で固定する必要性は薄く、だから今回のような“フライングスタート”が生まれやすいのでしょう。
6月が「フライング」に最適な理由
6月スタートのドラマが多いもう1つの理由は、編成上の重大事が少ない時期だから。
テレビ業界にとっての重大事は、春と秋の改編。レギュラー番組の終了や新番組の開始など番組表が大きく変わりやすい時期で、多くの特番も放送されます。また、年末年始も大型特番が多く、局内外があわただしい時期。つまり、春(3月)、秋(9月)、冬(12月)は今回のようなフライングスタートがしづらく、決行しても注目を集めづらいところがあります。
一方、春ドラマと夏ドラマの間にあたる6月は、春の改編直後だけに番組の出入りがほとんどなく大型特番も少ないため、連ドラの放送枠は「1~2週休んですぐにスタート」というケースがよく見られました。言わば、一年の中で最もフライングスタートがしやすい時期なのでしょう。
実際、昨年はTBSの看板枠・日曜劇場の『オールドルーキー』が6月26日、一昨年はフジテレビの看板枠・月9ドラマの『ナイト・ドクター』が6月21日に放送開始しました。どちらも大きな問題なく受け入れられただけに、今年の評判がよければ来年はさらに6月スタートの連ドラが増えてもおかしくないのです。