『80歳の壁』など数々のベストセラー作家でもある和田秀樹医師が、「58歳から元気になる方法」をテーマに、50代から60代の現役世代の悩みに答える新シリーズ。前回に続き、子供の言うことを聞かず、薬を飲まなくなった老親の健康問題について和田医師の考えを聞いた。
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「薬を飲みたがらない老親」が心配
「薬を飲みたがらない老親」に悩む現役世代の声も聞こえてきます。しかし、この点については、医療の側の問題から考えてみる必要があります。
今の日本の医療が、患者に薬を多く出し過ぎているのは、おそらく間違いないでしょう。
たとえば、検査をして「血圧が高い」となれば循環器内科では降圧剤が処方されます。「トイレが近い」と泌尿器科にかかれば、そこでも薬が出される。さらに「血糖値が高い」となれば、別の内科で別の薬が出されます。専門の診療科を受診するたびに薬が処方され、「気が付いたら10種類以上の薬を服用していた」という高齢の患者さんは珍しくないのです。
そうして多量の薬を飲み続ければ、どうなるか。薬を代謝・排泄する肝臓や腎臓の機能が衰えがちな高齢者ほど、副作用による体へのダメージを受けやすいため、多剤併用による健康被害が出やすくなるのです。健康を取り戻すために飲む薬が、体の具合をおかしくするという、本末転倒の事態が起こります。
高齢者の薬漬け医療の問題は、1990年代から明らかになっていました。先述したように、高齢になればなるほど、肝臓の分解能力・腎臓の排出能力が落ちるため、薬の成分が体に溜まりやすくなる。そのことによる弊害は副作用などで明らかですが、一方、薬を飲まなかった時にどうなるか(害があるのか)については、実はわかっていません。
たとえば、血圧にしろ、コレステロールにしろ、それらの数値を下げる薬を飲んだ人と飲んでいない人の大規模な比較調査が、日本ではほとんど行われていない。つまり、科学的データに基づくのではなく、「数値は下げるほうがいい」という医者の先入観で薬が処方されている側面があるわけです。
実際、体型で言えばやや肥満気味の、数値で言えばコレステロールがやや高めの人のほうが長生きしている実態は、統計上明らかになっています。医者が出す薬をどこまで信用できるかは、いったん立ち止まって考えてみる必要がありそうです。