中学生で棋士デビューした羽生

中学生でプロ棋士(新四段)となったのは羽生、加藤一二三、谷川浩司、渡辺明、そして藤井聡太の5人だけ

「天才少年のデビュー戦だから、撮りに来たらどう?」

弦巻 実はあの対局の前日、僕は宮田さんから電話をもらっていたんです。「明日、天才少年のデビュー戦だから、撮りに来たらどう?」と。宮田さんは当時、僕と同じ中野区の鷺宮に住んでいて、しょっちゅう飲んだり遊んだりする間柄でした。僕もその電話がなければ、撮りにいってなかったかもしれない。

羽生 そうだったんですか(笑)。

弦巻 将棋会館の控室にいたら、対局中の宮田さんが僕のところに来てね。「投げる(投了する)から来て」と言うわけですよ。そしてこれはおぼろげな記憶なんですが、そのときたまたま谷川さんも対局があって将棋会館にいたところを、僕が声をかけたらしいんです。「ちょっと羽生さんの将棋を見に行きませんか」って。それで「羽生のデビュー戦を見守る谷川」の構図を作ってもらったというのが、いまだから明かせる裏話です。

羽生 あの日は、河口俊彦先生(八段)をはじめ、何人かの先生方が見に来られたのは覚えています。あと、この対局は夕休(夕食休憩)のある将棋で、宮田先生が投了しようと思っていたところ、私が食事のため外出してしまっていて、どうも私のことを探していたようなことも後になって聞きました。

話が尽きない弦巻氏と羽生将棋連盟会長

話が尽きない弦巻氏と羽生会長

弦巻 じゃあ夕休のあと、羽生さんが食事から戻ってきたタイミングで僕が宮田さんに呼ばれたんだ。

羽生 多分そうだったと思います。

弦巻 宮田さんがいろいろ気をつかってくれたおかげで、羽生さんが公式戦初勝利を飾った場面を、こうして記録に残すことができたわけだから、宮田さん、谷川さんには感謝ですよ。

【全3回の第1回。第2回に続く】

【プロフィール】
弦巻勝(つるまき・まさる)/1949年、東京都生まれ。日本写真専門学校を卒業後、総合週刊誌のカメラマンに。1970年代から将棋界の撮影を始め、『近代将棋』『将棋世界』など将棋専門誌の撮影を担当する。大山康晴、升田幸三の時代から中原誠、米長邦雄、谷川浩司、羽生善治、そして藤井聡太まで、半世紀にわたってスター棋士たちを撮影した。“閉鎖的”だった将棋界の奥深くに入り込み、多くの棋士たちと交流。対局風景だけでなく、棋士たちのプライベートな素顔を写真に収めてきた。日本写真家協会会員。

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