スポーツ

蛯名正義・調教師が考える「競走馬の個性と調教」 その日の様子だけではなく、長い「線」で見ることの重要性

コロナ禍の競馬界を振り返る

2022年3月から調教師として活動している蛯名正義氏

 1987年の騎手デビューから34年間にわたり国内外で活躍した名手・蛯名正義氏は、2022年3月から調教師として活動中だ。蛯名氏の週刊ポスト連載『エビショー厩舎』から、馬の個性と調教についてお届けする。

 * * *
 サラブレッドは持って生まれた能力が絶対、とくにスピードに関しては天性のものと言っていいと思います。調教によって手前の替え方がスムーズになったりして走破タイムがよくなることはありますが、基本的なスピード能力が上がるわけではない。ポテンシャルは人間の力では代えられないと言われています。

 調教によってスタミナはついていきますが、それによって故障するリスクが高くなる可能性があります。アスリートがトレーニングするときは「限界に挑戦」などといいますが、そもそも競走馬にとってどこがギリギリなのかなんて人間にはわからない。まだ余裕がある腹八分目くらいがいいっていうのは本当にその通りではないかと思ってしまいます。

 前回、僕たち厩舎人は「管理馬のことを悪く言いたくないもの」だと書きましたが、それはけっして弱点とか欠点などと言われていることに目をつぶるとか、認めないということではありません。それどころかそういう部分をその馬の強みと考えたりすることもありかもしれませんね。

 たとえば折り合いがつきにくい「気のいい馬」については、丹念に調教して直していったら従順になって、ある程度成績が伸びるかもしれない。けれども、人間の言うことを素直に聞かないという面があるから、闘争心ともいえる「火」が消えなかったりするかもしれないのです。

 あくまで僕の感覚ですが……その種火かもしれないような「火」が、どこかで爆発するかもしれないという可能性は残しておきたいですね。「気がいい」というのは走ることに前向きなのですから。

 なんというか、あっちを立てればこっちが立たず、こっちを立てればあっちが立たずというところのせめぎあいなのです。乗馬のように人間の言うことだけを聞いていればいいというと、速く走らなくなってしまう可能性も否定できないのではないかと思うのです。

 人間も同じかもしれませんよ。おとなしくて親や教師の言うことをなんでもハイハイと聞いているような子は、扱いやすいけれど、何か物足りないと感じることがあるかもしれませんね。もちろん、おとなしくてそれで走ってくれる子が一番いいんですけど、なかなかそういう子には出会えません(笑)。

関連キーワード

関連記事

トピックス

死亡が確認されたシャニさん(SNSより)
《暴徒に唾を吐きかけられ…》ハマスに半裸で連行された22歳女性の母親が“残虐動画の拡散”を意義深く感じた「悲しい理由」
NEWSポストセブン
大谷のサプライズに驚く少年(ドジャース公式Xより)
大谷翔平、始球式サプライズに「なんてナイスガイなんだ」と全米絶賛 幻となった“真美子夫人の始球式”は7月以降に実現の可能性
女性セブン
9月の誕生日で成年を迎えられる(4月、東京・町田市。写真/JMPA)
【悠仁さまの大学進学】幼稚園と高校は“別枠”で合格、受験競争を勝ち抜いた経験はゼロ 紀子さまが切望する「東京大学」は推薦枠拡大を検討中
女性セブン
所属事務所は不倫を否定(時事通信フォト)
《星野源と新垣結衣が完全否定》「ネカフェ生活」NHK・林田理沙アナとの疑惑拡散の背景「事務所が異例の高速対応」をした理由
NEWSポストセブン
【ネットは見なければ平和】大ヒットエッセイ『九十歳。何がめでたい』が映画化、佐藤愛子さんのかっこよすぎる生き方と考え方
【ネットは見なければ平和】大ヒットエッセイ『九十歳。何がめでたい』が映画化、佐藤愛子さんのかっこよすぎる生き方と考え方
女性セブン
スキャンダル写真で芸能界を震撼させた『BUBKA』
《90年代アイドルを震撼させた月刊誌『BUBKA(ブブカ)』》の創刊編集長が急死していた スキャンダル写真で物議「スクープ100万円」「複数訴訟」の全盛期
NEWSポストセブン
杉咲花と若葉竜也に熱愛が発覚
【初ロマンススクープ】杉咲花が若葉竜也と交際!自宅でお泊り 『アンメット』での共演を機に距離縮まる
女性セブン
5月に入り病状が急変し、帰らぬ人となった中尾彬さん
【中尾彬さん逝去】数か月体調優れず、5月に入って容体が急変 葬儀は近親者のみ、妻・池波志乃さんは憔悴しながらも参列者に感謝
女性セブン
全国赤十字大会ではスピーチに目を潤ませる場面もあった(4月、東京・千代田区。写真/JMPA)
『虎に翼』を楽しんでいらっしゃる雅子さまと愛子さま 女性天皇への期待高まるなか、揺れるお立場に「日本初の女性弁護士の物語」を重ねられて
女性セブン
女子ゴルフ界の新星として注目を集める清本美波
【プロテストでトップ合格】女子ゴルフ界の新星・清本美波、女子大生と二足のわらじを履く18歳「目標はタイガー・ウッズ」
週刊ポスト
詐取の疑いで逮捕された元宝塚“大滝子”こと光原エミカ(HPより)
《『水ダウ』ざます企画に出演》元宝塚・月組トップスターが現金1000万円詐取の疑いで逮捕「ディナーショーが8万円に値上がり」ファンが察知した違和感
NEWSポストセブン
亡くなったシャニさん
《7か月を経て…》ハマスに半裸で連行された22歳女性が無言の帰宅、公表された最期の姿「遺体の状態は良好」「肌もタトゥーもきれいに見える」
NEWSポストセブン