ひたむきに野球に取り組み、守備につくとき高校球児のように全力疾走する横田選手はチームメートから愛されていた。病気になってからは育成選手の契約になったが、引退セレモニーや追悼試合まで開催されている。

 そんな横田選手の闘病を陰で支えたのが母のまなみさんだった。

「リモート取材でも、すごく丁寧に細やかに話してくださるかたでしたけど、お人柄まではわからなくて。鹿児島で、慎太郎さんと一緒にお会いすると、ふわっとした空気感で、明るくてよく笑うかたでした。まなみさんが何か言うと慎太郎さんが『それは違うでしょ』とボケに対するツッコミみたいに言うんですよね。

 お会いする前に想像していたのと少し違って、自分の進むべき道をぐいぐい行く慎太郎さんを、お母様が慌てて追いかけながらサポートする、そんな感じのお二人でした」

 2020年に脊髄への転移がわかって2度目に大学病院に入院したときはコロナ禍で、病院では付き添いを断っていた。ふだん穏やかなまなみさんが、このときばかりは食い下がり、無理を言って病室に泊まり込んでいる。

「本当は付き添いたくても、ダメと言われたらあきらめてしまうところを熱意で押し切ってしまったようです。病院は困ったかもしれませんが、本当に愛情が深いと思いました。慎太郎さんは『ぼくはマザコンじゃないです』と周囲に言いまわっていたらしいですけど(笑い)」

 中井さんが全身全霊を込めたと言うのが、「奇跡のバックホーム」と呼ばれた瞬間の描写だ。

「自伝でも、もちろんその場面は出てくるんですけど、慎太郎さんはお母様に、『こういう感じじゃなかった、もっとキラキラと、ほんとに光ってたけど、どう表現したらいいかわからなくて』と言っていたそうなんです。追悼試合の翌日、まなみさんにお会いしたときにそのことを聞いたので、これは自分の力の及ぶ限り書かないといけないと思い、この本を書くにあたって、この場面から書き始めました」

 ──キラキラ、キラキラと、音が鳴るように、グラウンド一体が、光に包まれて瞬いています──

 本では中盤にあたるこの部分から書き始めたそうだ。2人から大切なものを託された気持ちで、読者が鮮明に、みずみずしく思い浮かべることができるよう、書いていった。

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