ビジネス

米がQE3実施なら日本も円安・デフレから脱却可能との意見

2012年の世界の金融情勢は、米QE3(量的金融緩和第3弾)を皮切りに、「究極のグローバル金融緩和」が実施され、「歴史に記録される年になるだろう」というのは、元ドイツ証券副会長の武者陵司氏だ。では、世界経済、日本経済にグローバル金融緩和が何をもたらすのか。以下、武者氏が解説する。

* * *
新時代のグローバル金融緩和は、金融市場を通じて、国債を含むさまざまな資産を買い上げることで、信用創造を生むことが主な政策手段となっている。これは、金利操作が主な政策手段とされてきた中央銀行からすると、禁じ手、いわゆる「非伝統的手段」と見なされるものである。

金融当局および金融市場では、こうした非伝統的手段は、現在のような非常時でこそ正当化されうる、と考える向きが多数派であるが、果たしてそうか。私は、市場へ直接介入し、資産価格の変動を通じて、インフレやデフレ、景気をコントロールすることが、新時代の中央銀行に求められる「正統的手段」ではないかと考えている。

中央銀行が民間銀行を通じて信用創造を行なっていた間接金融の時代は、金利操作が主たる政策手段であった。しかし、今は直接金融の時代となり、企業は自らの信用力で市場から資金調達している。

企業だけではない。今回のギリシャ危機で判明したように、国家も市場から資金を調達しなければならず、資金調達の如何は、国家の信用力によって市場が決めることとなる。ギリシャの場合は、国家の信用度が資金調達を可能とするレベルを下回ってしまい、EUから金融支援を受けることになったわけである。

こうした時代にあっては、量的金融緩和を非伝統的手法として謗るのは誤りだろう。中央銀行は、積極的な市場への直接介入を通じて、信用創造を図るべきなのである。

こうした一連のシナリオが現実化すれば、為替市場にも大きなインパクトを与えることは必至だ。

2011年、円は米ドルに対して史上最高値を更新し続けていたが、それは、ひとえに欧米と比べて日本の金融緩和が物足りないからである。グローバル金融緩和に巻き込まれ、政府・日銀が本腰を入れて金融緩和に踏み切れば、おそらく、円高はピークアウトするだろう。

少なくとも、「QE3」(量的金融緩和第3弾)の実施によって米景気が本格回復してくれば、グローバル投資家のリスク・オフ・ポジションが解消され、円の売り戻しが起こるはずだ。過去、米ドルの実効為替レートの推移を見ても、ほぼ10年周期で安値を付けている。チャートからは、すでにその安値からの反発局面に入りつつあることがうかがえる。いったん円安トレンドに移行すれば、長期間にわたって円安局面が続くのは間違いない。

円安になれば、日本のデフレも早晩解消に向かうはずである。円安は、日本の労働者所得の実質的な切り上げに結び付くため、個人消費の購買力が増大する。まず、これがデフレ脱却の強力な推進力となろう。

さらに、現状の1ドル=70円台の円高でも、日本企業はやっていくことができている。円安になれば企業収益は飛躍的に増大し、株価も上昇するはずだ。円安→企業収益拡大→株価(資産価格)上昇という好循環で、日本を長らく苦しめたデフレから脱出することでできるだろう。そして、デフレ脱却自体が、さらなる円安を誘発する。

世界的に割安状態に置かれている、不動産、金融セクター、さらには円安メリットを享受できる輸出関連株などが著しい上昇を見せると予想される。

世界経済にとって、そして日本経済にとっても、目先の困難を克服した後には、壮大な新時代の幕開けが目の前に迫っているのかもしれない。

※マネーポスト2012年新春号

関連記事

トピックス

エンゼルス時代、チームメートとのコミュニケーションのためポーカーに参加していたことも(写真/AFP=時事)
《水原一平容疑者「違法賭博の入り口」だったのか》大谷翔平も参加していたエンゼルス“ベンチ裏ポーカー”の実態 「大谷はビギナーズラックで勝っていた」
週刊ポスト
中条きよし氏、トラブルの真相は?(時事通信フォト)
【スクープ全文公開】中条きよし参院議員が“闇金顔負け”の年利60%の高利貸し、出資法違反の重大疑惑 直撃には「貸しましたよ。もちろん」
週刊ポスト
阿部詩は過度に着飾らず、“自分らしさ”を表現する服装が上手との見方も(本人のインスタグラムより)
柔道・阿部詩、メディア露出が増えてファッションへの意識が変化 インスタのフォロワー30万人超えで「モデルでも金」に期待
週刊ポスト
昨秋からはオーストラリアを拠点に練習を重ねてきた池江璃花子(時事通信フォト)
【パリ五輪でのメダル獲得に向けて】池江璃花子、オーストラリア生活を支える相方は元“長友佑都の専属シェフ”
週刊ポスト
店を出て並んで歩く小林(右)と小梅
【支払いは割り勘】小林薫、22才年下妻との仲良しディナー姿 「多く払った方が、家事休みね~」家事と育児は分担
女性セブン
大の里
新三役・大の里を待つ試練 元・嘉風の中村親方独立で懸念される「監視の目がなくなる問題」
NEWSポストセブン
外交ジャーナリスト・手嶋龍一氏(左)と元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が対談
【手嶋龍一氏×佐藤優氏対談】第2フェーズに突入した中東情勢の緊迫 イランの核施設の防空網を叩く「能力」と「意志」を匂わせたイスラエル
週刊ポスト
テレビや新聞など、さまざまなメディアが結婚相手・真美子さんに関する特集を行っている
《水原一平ショックを乗り越え》大谷翔平を支える妻・真美子さんのモテすぎ秘話 同級生たちは「寮内の食堂でも熱視線を浴びていた」と証言 人気沸騰にもどかしさも
NEWSポストセブン
「特定抗争指定暴力団」に指定する標章を、山口組総本部に貼る兵庫県警の捜査員。2020年1月(時事通信フォト)
《山口組新報にみる最新ヤクザ事情》「川柳」にみる取り締まり強化への嘆き 政治をネタに「政治家の 使用者責任 何処へと」
NEWSポストセブン
愛子さま
【愛子さま、日赤に就職】想定を大幅に上回る熱心な仕事ぶり ほぼフルタイム出勤で皇室活動と“ダブルワーク”状態
女性セブン
行きつけだった渋谷のクラブと若山容疑者
《那須2遺体》「まっすぐ育ってね」岡田准一からエールも「ハジけた客が多い」渋谷のクラブに首筋タトゥーで出没 元子役俳優が報酬欲しさに死体損壊の転落人生
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 岸田自民「補助金バラ撒きリスト」入手ほか
「週刊ポスト」本日発売! 岸田自民「補助金バラ撒きリスト」入手ほか
NEWSポストセブン