中国の官制報道は、何も政治経済や外交のニュースに限ったものではない。ソーシャルメディアの普及は、メディア最前線での不満をかつてないほどに高めている。中国に詳しいジャーナリスト・富坂聰氏が指摘する。
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「7人の同僚と2000㎞を走り回り20名以上の被災者家族を取材した。朝になってその自分たちの原稿がどうなったかを知った。オレがいま言いたいことはただ一つ。〝ファック・ユー〟だ!」——。
自身の微博(ミニブログ)にこんな過激な書き込みをしたのは、中国でも過激な報道をすることで知られる『南方週末』の張育群記者だ。激しい罵倒の対象は、なんと北京市政府だった。問題の背景を北京の都市報の記者が語る。
「実は『南方週末』が用意していた北京の大雨に関する原稿が、8ページにわたって差し替えられてしまったのです。それも彼らが取材した被害状況や25人の死亡者の報道をすべて削り、災害救助に当って殉職した5名の政府職員の物語を載せるように要求されたようなのです。この強引な介入に怒った記者たちが、次々に自らの微博で不満をぶちまけたため、大きな話題となったのです」
7月末に北京を襲った大雨によって首都機能が奪われる被害を受けた北京は、時代に逆行するかのような隠蔽体質をさらけ出した。
その最たるものが被害者数の誤魔化しだった。当初37人と発表された死者数が、後に70人を超えていたことも発覚。かつてのSARS騒動を思い出させるような北京市の旧態依然とした対応に対し、ネット世論からも激しい怒りの声が上がり、やはり行政に対する民意の監視が厳しくなってきていることを感じさせた。
だが、何といっても興味深いのは官制メディアと言われ続ける中国のメディアがかくも激しい批判の言葉を公然と浴びせかけるという現実である。
以前の原稿で、ソーシャルメディアが果たす役割について触れたが、今回の事件はまさにその変化を裏付ける現象であった。というのも媒体に圧力をかけて紙面を差し替えさせることができたとしても、記者たちが怒ってその気持ちをネットを通じて発表することは止められない。そして、こうした圧力に対する告発は、必ず民意の大きな支持を得られるため、当局には分の悪い結果を生じさせるという事実がきちんと認識された。
このベクトルの先には中国が今後向かうべき方向がはっきりと示されているのだ。