世界遺産登録を目指す古都・鎌倉が熱い。年間2000万という観光客で賑わっているだけではなく、IT企業が続々誕生・移転してきているのだ。
国が行う「事業所・企業統計調査」の発表によると、鎌倉市の事業所のうち「情報通信業」の数は、平成18年の60から平成21年は154と、約2.5倍に増えている。鎌倉市の観光商工課によると、その後も増えているのではないかという。
鎌倉のIT企業と言えば、有名なのは「面白法人カヤック」だ。Webおよびモバイルコンテンツの企画開発を行う同社は、2001年から鎌倉に本社を構える。基本給にプラスされる給料をサイコロで決める「サイコロ給」や、運営するbowls農園で汗を流した社員に支給される「野菜給」、社員の顔をモチーフにした「漫画名刺」など、一風変わった制度で知られ、売上は、ここ5年で8.5倍に伸びた。
国内最大のクラウドソーシングサービスを展開する「ランサーズ」も、鎌倉に拠点を置く企業の一つだ。仕事の受発注をインターネット上で行うサービスを2008年に開始し、これまでに42億円の仕事を扱ってきた。そのランサーズの広報・山口豪志さんに、鎌倉に本社を置く理由を聞いた。
「鎌倉のメリットは主に3つあると思います。1つ目が、言うまでもないですが、“環境”の良さです。海があり山があり、シリコンバレーにも似た環境で、集中して仕事に取り組むことができる。また、働くわれわれだけでなく、子育てなど家族にも良い環境です。ワークライフバランスを考えても、鎌倉は絶好の場所だと思います。
2つ目が、“地域コミュニティー”の充実。鎌倉にIT企業や、個人クリエイターの方が増えていますが、企業・個人同士の仲が良い。鎌倉というこぢんまりとした規模が、ほどよい密接度を生んでいるのだと思います。カヤックさん、村式さんなど、他社さんとは仕事でも、勉強会、お寺での座禅会、バーベキューとか仕事以外のイベントでも、よくコラボするんです。鎌倉を軸にしたつながりや結束力が、モチベーションにも良い影響を与えていると思いますね。
そして3つ目が、“鎌倉フィルター”がかかること。都内から1時間、遠すぎもしませんが、近くもない。会いに来て下さる方、あるいはこちらから会いに行く方は、“本気で会いたい方”に限られる。互いに本気度が試されるのです。都心からの適度な距離感が、人や情報を精査してくれると言えます」
鎌倉で働くことが、オン・オフともにプラスに働いているようだ。
ランサーズは今年7月に第1回「鎌倉IT勉強会」を主催して、周辺の企業の交流・情報発信を図った。そこでは鎌倉のメリットとして、「集中して事業に取り組める」「ネームバリューによって興味を持ってもらいやすい」などが挙げられたとのこと。ちなみにデメリットとしては「ランチが高い」「飲食店が夜早く閉まる」など食事に関するものが多く、総じてメリットが強調されたという。
折しも楽天が、2015年に本社を二子玉川に移転すると発表した。IT企業は場所を問わないと言われながらも渋谷や六本木といった都心に集積する傾向の強かった業界に、“脱都心”の流れが本格かするのか。ITの新名所として、鎌倉の存在感が高まっている。