西川文二氏は、1957年生まれ。主宰するCan! Do! Pet Dog Schoolで科学的な理論に基づく犬のしつけを指導している。その西川氏が、犬同士の挨拶の方法について解説する。
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元々は意味があったけど、その意味は忘れ去られ、今や儀式化されている行動、ってのがある。例えば挨拶行動。「攻撃するつもりはありませんよ」といった意思表示が、本来そこにはあった。
日本人の挨拶は、おじぎ。日本は戦国の世から刀が武器。そんな社会の中で、おじぎは何を意味するのかっていうと、それは頭や首を切られてもいい、ってこと。
西洋人の挨拶は、握手。握手は、武器を持っていないってことを示す。「剣もナイフも拳銃も、何も持ってないでしょ」ってね。
よく外交のシーンで、握手の仕方によって相手の国への思いがわかるっていう。両手を差し出した場合は、かなりいい関係。両手に武器を持っていないことを示しているから。片手での挨拶の場合は、儀礼的。もう片方の手には武器を隠し持っているかもしれない。
さて、犬同士の挨拶はどんなんかっていうと、まずは視線を外して弧を描くように相手に近づく。犬の武器は牙、その牙にやられたら「もはやこれまで」なのは、お腹。弧を描いて近づくってのは、「ほら急所のお腹、脇腹をあなたに見せているでしょ」ということ。
で、その後はお尻の臭いを嗅がせる。コレ、人間の場合の名刺を渡すのと同じようなもの。犬のお尻には、個体識別ができる匂いを発する器官が、あるのである。
さて、貴兄が初めての犬と上手に挨拶がしたいなら、コレに学ぶといい。犬が貴兄の匂いを嗅げる位置まで、視線を合わせないように、回り込んで近づく。貴兄の匂いを嗅いでも犬が嫌がってないなら、次に手の甲の匂いを嗅がす。それも怖がらないようなら、初対面としての挨拶は成功ってこと。
お尻の臭いは嗅がさなくていいのかって? それはしなくていい。貴兄のお尻には、名刺代わりの匂いを発している器官なんてのは、標準装備されてませんからね。
※週刊ポスト2012年11月23日号