ガソリン価格の高止まりから、エンジンと電気モーターを併用して燃費効率の良いハイブリッド車(HV)の人気がますます高まっている。
そんな中、ホンダが「渾身のハイブリッドシステムを搭載した魔法のようなクルマ」(伊東孝紳社長)と絶対の自信を見せる新型の『フィット ハイブリッド』が発売された。肝心の燃費は先行するトヨタ『アクア』の1リットル当たり35.4kmに対し、36.4kmと国内最高の低燃費を実現。それでいて価格もアクアの169万円より5万円以上安くした。
ホンダによれば、すでに2万5000台の事前受注があり、月販目標1万5000台を見据えている。「コンパクトカーの中では久々にトヨタにひと泡吹かせられる出来栄え。息の長い人気となるはず」(業界関係者)と、早くも評判は上々だ。
だが、実は一番の売りであるはずのHV車種以外にこそ「ホンダらしさが出ている」と指摘する向きもある。自動車ジャーナリストの井元康一郎氏がいう。
「今回のフルモデルチェンジはHV車だけでなく、1.3/1.5リットルのガソリン車モデルでも行われていますが、私が試乗した中ではガソリン車の『1.5RS(特別仕様車)』がもっとも爽快でした。加速はいいし、少々荒々しいエンジンサウンドもむしろ気持ちいい。改めて走りの楽しさを感じさせてくれます」
それもそのはず。この車種に積まれているエンジン(1.5リットル4気筒直噴DOHC)は、かつてF1のエンジニアだった本田技術研究所・四輪R&Dセンターの主任研究員、角田哲史氏が基本設計まで携わっていたという。しかし、新車発表会ではこのモデルについてのアピールはまったくなかった。
「もともとホンダはエンジンの良さを看板としてきた会社。これまでずっと大事にしてきた“スポーツドライブマインド”が盛り込まれたモデルなのに、それを隠してハイブリッドばかりに存在価値を押し込めていては、トヨタとの差別化は図れません」(前出・井元氏)
F1やラリーで培った「走り」を求めるホンダファンは今も多い。そんな期待を裏切ってまでトヨタとトップランナー争いをしても、結局はブランドイメージを毀損する。井元氏はそう危惧しているのだ。
また、燃費戦争ばかりに血眼になっていると、世界の競合メーカーからも取り残されるという。
「今年日本でも発売される仏・ルノーの『クリオ(日本名ルーテシア)』は、先進的なデザインで若者が一目惚れするようなコンパクトカーです。最近は大衆車でも情感豊かなデザインに改革する流れになっているのに、フィットはそこまで目新しいイメージは受けません。
また、新型『ゴルフ7』をはじめとする独・フォルクスワーゲンのクルマは、例えばブレーキをかけた時でもどれだけ人間が気持ちよく止まれるかという“官能評価”を研究し尽くしています。それに比べ、ホンダだけでなく日本車の乗り心地は、まだ改善点は多いのです」(井元氏)
日本のHV技術は世界に先駆けて高い評価を受けていることに異論はない。だが、世界中でコンパクトカー市場が盛り上がりを見せる中、クルマ本来の持つカッコ良さや乗り心地の改良を怠れば、あっという間にシェアを奪われてしまう厳しい業界であることも、また事実であろう。