国際情報

オバマのシリア対応「言葉が軽すぎセンスなし」と落合信彦氏

 激しい内戦の続くシリアでアサド政権が化学兵器を使用した問題が、国際社会を大きく揺さぶった。国連の安全保障理事会において、シリアに国際管理下での廃棄を課す決議が採択されたが、そこに至るまでの経緯で、「アメリカ大統領・オバマがリーダーの資質を著しく欠いていた」と指摘するのは作家の落合信彦氏。以下、落合氏が解説する。

 * * *
 8月21日にシリアの首都・ダマスカス郊外で政府軍が反政府組織に対して化学兵器(サリン)を使用したという情報がもたらされると、オバマ政権は東地中海にミサイル駆逐艦を展開させ、武力行使に踏み切ろうとした。

 ところが、8月末に同盟国・イギリスがシリア攻撃への参加を断念すると、オバマは急に「議会に武力行使のための事前承認を求める」と言い出した。アメリカ大統領が軍事行動に先立って議会に承認を求めるのは異例中の異例だ。法律上は、議会には事後報告・事後承認で構わないと定められていて、歴代の大統領の多くがそうしてきた。

 議会に諮っている間に、シリアに大量の武器を輸出するロシア主導で「化学兵器を国際管理して廃棄する」という案が示され、そのシナリオに沿った国際合意が生まれた。

 結局、オバマはまったく外交的リーダーシップを発揮することができなかった。それはオバマが人気取りばかりを考える“世論調査大統領”だからだ。

 本来、武力行使に踏み切るのであれば、スピードがすべてだ。少しでも相手に猶予を与えれば、化学兵器を隠すことなど容易い。しかも事前に議会に諮れば、特に下院議員たちは地元選挙区の有権者から「戦争はごめんだ」と突き上げをくらう。承認される可能性が極めて低いことはわかりきっていた。

「アメリカは武力行使すべきだった」と言いたいのではない。アメリカがミサイルを撃ち込めば、イランがシリアを支援し、イスラエルはイランの勢力伸長を止めにかかる。戦火はシリア国内にとどまらず、第五次中東戦争が勃発してもおかしくなかった。

 そもそもアサドの独裁政権に叛旗を翻したのは“善良なる反政府派”ではない。反政府派には国際テロ組織アル・カーイダと繋がりのあるグループが含まれる。単に独裁者・アサドを追い出せばシリアに自由と平和が訪れると考えるべきではない。

 問題は、オバマが「攻撃を決断した」と表明しながら、瀬戸際になって責任を取ることから逃げた点にある。

 リーダーに求められるのは決断することであり、決断の結果に責任を取ることだ。オバマは民主主義的な手続きを重んじたのではなく、リーダーが取るべき重い責任を議会のメンバーに分散させただけだ。

 オバマという大統領は言わなくてもいいことを明言し、自らの行動を縛ってしまう失敗を犯すことが多い。

 一期目の就任直後、エジプトのカイロでの演説で、CIAによるイランへの過去の工作の存在を認め、今後はそうした策は取らないと語ったのはその典型例だ。他国に影響力を行使する選択肢を自ら狭めてしまった。

 今回のシリア問題も同様で、先に「武力行使をする/しない」とは明言せずに、シリアに圧力をかけることはいくらでもできた。リーダーの言葉の重さを理解していないということであり、政治的・外交的駆け引きのセンスがない証左でもある。

 シリアの化学兵器問題への対応を経て、諸外国が超大国・アメリカに抱く印象は大きく変わっただろう。「アメリカの世論が厭戦ムードになる情報を出せば、オバマは武力行使に踏み切れない」と考えられておかしくない。

 アメリカは今でも世界一の圧倒的な軍事力を持つ。その軍事力は、ただ行使するためだけにあるのではない。相手がそれを脅威に感じることで、結果として血を流すことなく問題を解決できることもある。

 そのためには、「アメリカのリーダーは、一度決断したら武力行使を躊躇しない」と思わせることが必要条件となる。オバマはその条件を満たせなかった。この失態が国際社会に与える影響は大きい。

※SAPIO2013年11月号

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