また、常見氏は、根拠なく「感動」「成長」「夢」という言葉を並べている広告に注意を呼びかけている。これはベンチャー系で非常に多い。それしか売りがないのか、という疑念が浮かぶパターンだ。業務内容がしっかり説明されていればいいのだが、感動している若手社員の写真で埋め尽くされているような採用広告はブラック警報だろう。心当たりのある会社の担当者は、即刻、写真をはがしたほうがいい。で、レトリックやグラフィックに頼らない、事実としての貴社の仕事の魅力を伝えていただきたい。
冊子では、次に法政大学キャリアデザイン学部教授の上西充子氏が登場。「客観データから見分ける」と題し、東洋経済新報社の「四季報」シリーズや新聞のデータベース、有価証券報告書までの賢い読み方を伝授。これはブラック企業云々と関係なくても、ビジネス上のリサーチのイロハとして勉強になる内容だ。
上西教授は、とりわけ『就職四季報』の活用法に多くの紙幅を割いている。そう、あの年間本は企業に媚をうらない珍しい就職関連書で、使い出がかなりあるのだ。『就職四季報』には、就職ナビや企業の採用サイトではほとんど見当たらない、男女別の採用実績数や配属部署の状況、従業員の平均勤続年数、35歳賃金などの記載欄がある。新卒入社者の3年後離職率という枠もある。
ただし、『就職四季報』は、編集部が出したアンケートに企業が回答した内容を掲載している。企業側が回答しなかった項目の枠内には、「NA」(No Answer)と記されている。その場合は隠したい情報なのだと用心したほうがいい、と教授はアドバイス。実際、NAの文字は『就職四季報』のあちこちに印字されている。NAだらけだと「この会社、あやしそう」という気配が漂う。あやしい事実はなくて、出版社のアンケートにいちいち答える義理はないと考えるからそうしたのだという会社もあるだろうが、そんな思いは伝わらない。情報はなるべく開示すべきが身の為だ。
トリで登場するのが、ベストセラー『ブラック企業』(文春新書)の著者として、この言葉に火をつけた今野晴貴氏。労働相談のNPO代表理事だけあって、彼の文章は明晰ながらもやや攻撃的。労働法では「月給制」「年俸制」「残業手当」などの制度は定められていない、ましてや「固定残業制度」などという仕組みを使うところは長時間労働を前提としており危険だ、と警告している。
そんなことを言われても、労働法通りの人事で経営したら会社が潰れてしまう……といった中小零細企業もあることあろう。法律をうまいように使って人件費を削減し肥え太っていく企業がある一方で、そうした「仕方なく社員に泣いてもらっている」企業も少なくないはずだ。だが、「ブラック企業」の広まり以降、世間の目は厳しくなりつつある。その代表例として、今野氏の議論を知っておくことは無駄ではない。
以上、『ブラック企業の見分け方』から、ごくごく一部を紹介した次第だ。内容の充実ぶりが伝われば幸いである。貴方の居場所やスタンスがどうであれ、会社を守り、会社をよりよくするためにダウンロードをお勧めする。