そうした経緯のあるクリミアで住民の大多数がロシア編入を望んだのに、米欧は認めないと叫んでいる。それこそが1つ目の矛盾だろう。米欧は、自らが2008年にコソボ独立を認めた経緯を思い出すべきだ。旧ユーゴスラビアのセルビアに属する自治州の1つだったコソボでは、セルビア系住民と独立を求めるアルバニア系住民の武力衝突が激化し、NATO(北大西洋条約機構)が軍事介入した。国連による暫定統治を経てコソボはアルバニア人で占める自治州議会がセルビアからの独立を宣言し、米欧はすぐに国家として承認した。
それと今回のクリミアでは、論理的にどこが違うのか。なぜコソボ独立をすぐに認めながら、クリミア独立は認めないのか。
さらに、米欧はロシアの動きを「侵略」と非難している。これが2つ目の矛盾だ。ウクライナでは首都キエフなどで極右勢力が、ウクライナ語を話せなかったりウクライナ国歌を歌えなかったりするロシア系住民に暴力をふるっていると繰り返し報じられていた。ロシアはそうした〝暴挙〟が続くようだと「看過できない」と警告してきた。
アメリカも1983年にカリブ海の島国グレナダでクーデターが起きた際、グレナダにいたアメリカ人医学生らの安全確保を理由に軍事侵攻して制圧した。それとクリミアで、どこが違うのか。
客観的に見て、米欧に大義名分はないと私は思う。しかし、ここで指摘したような論点が日本のマスコミには欠落している。「アメリカが好き」「ロシアが嫌い」ではなく、日本人はクリミア問題をもっと冷静かつ論理的に考えるべきだ。
※SAPIO2014年5月号