大学と企業が連携して進める最先端の研究内容は中国側が喉から手が出るほど欲しい情報だ。「博士課程に在籍する留学生に、『所属する研究室の教授のパソコンから論文原稿を持ち出すように』といった指示が出る。留学生側はあくまで大使館への活動報告の範囲と考えているが、それが同じ分野を研究する中国の大学や企業へ流れてしまう」(在中国ジャーナリスト)といった懸念を持つ専門家は多い。
昨年4月には防衛省情報本部の女性事務官が部外秘の資料を持ち出そうとしていたことが発覚し、調査の結果中国人留学生と接触していたことが判明した。こうした例から類推できるように、表向きは留学生の身分で情報のプロが入ってくるケースもある。
2007年にデンソーに勤める中国人エンジニアが13万件にも及ぶ機密設計情報を不正に持ち出していた事件では、当該エンジニアは中国国営の軍事関連会社に勤務した後、留学生として来日して大学を卒業し、デンソーに入社していた。
「2012年に工作機械大手のヤマザキマザックで中国人社員が工作機械用図面情報約2万点を不正に持ち出した事件でも、逮捕(不正競争防止法違反)された社員は日本の大学を卒業していた。
最初からスパイ目的で送り込まれている者もいるし、日本企業が中国人社員を幹部候補生として扱わず昇進が遅れたことなどに不満を募らせた結果、社の利益に背いて情報を持ち出そうと考えるケースも少なくない。日本人の管理職が『彼は真面目だ』と判断しても、それとは別次元の力を働かせる勢力がいるのです」(鳴霞氏)
※SAPIO2014年6月号