厚労省は今年3月、ハローワークの求人票と実際の労働条件が異なるという問題に対処するため、「ハローワーク求人ホットライン」を開設し、問題の解決に努めている。求人票より基本給が低かった場合、退社にあたり差額分を請求できるのだろうか? 弁護士の竹下正己氏はこう回答している。
【相談】
ハローワークで求人票を見て、基本給が30万円ということで運送会社に入社しました。ですが、働き始めて3か月、基本給が19万円だとわかり会社に確認すると、30万円は60時間の残業代込みの金額だとの説明。今月で会社を辞めますが、求人票に記されていた基本給の差額の3か月分を請求できますか。
【回答】
ハローワークで求人をする事業者は、求人票に、業務内容、賃金、労働時間その他の労働条件を明示する義務があります。就職時にも労働条件の明示義務がありますが、二つの条件は意味が違います。
就職時明示される条件は、労働契約の内容として確定されたものです。他方、求人段階の条件は誤解を恐れず極端にいえば、擬餌の可能性があります。求人は、雇用契約への誘引であり、応募した人と会社が試験や面接などを経て合意に達してから、雇用契約を締結するのが本来の姿です。
そこで求人票の条件は、賃金を含め一種の見込みといえます。求人票の金額が当然に雇用契約後の賃金の額になるわけではありません。協議の結果、求人側との間で求人票と異なる条件で合意ができれば、合意が優先します。
しかし交渉が無かったり、説明があっても、求人票を信頼して元の職場を辞め今さら断われない状況下で契約するような場合は、求人票の待遇を信じて準備した労働者に対して、使用者は労働基準法の労働条件明示義務に違反し、信義則に反する不法行為をしたことになり、損害賠償責任を負うと考えられます。
また、そもそも労働契約に際して、その条件の明示をしなかったとすれば、30万円以下の罰金が科せられる労働基準法違反になります。その場合、実際の条件は別だというような断わりがあればともかく、求人時の条件が提示されただけですから、その内容で契約したことになり、提示条件による支払いも要求できると思います。
こうした賃金などの労働条件の紛争は、弁護士に法的対応を相談するほか、都道府県におかれている労働局長による個別労働紛争の解決制度を利用することも検討できます。求人票の性格を理解して、面接等で実際の労働条件を確認することが大切です。
【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2014年6月13日号