国際情報

ノーベル平和賞に近い男 リビアのカダフィ大佐との交渉秘話

「最もノーベル平和賞に近い男」と呼ばれるカナダ人をご存じだろうか。

 日本での知名度は高くないが、世界がその動向に注目するダンディな紳士の名は、ヤンク・バリー氏(66)。弁舌さわやかな彼の口からは奇想天外な逸話が次々と飛び出す。この男、いったい何者なのか──。

 現在、ヤンク氏は内戦状態のシリアからトルコを通ってブルガリアに逃れる難民のサポートを行なっている。彼らが難民申請するための費用やEU内第三国への移動費だけでなく、首都ソフィアにあるホテル2棟を難民の宿泊施設として買い取った。

「ブルガリア政府がシリア難民を受け入れられるのは、私が衣食住すべての資金を提供しているからさ。

 なぜそこまでするかって? 私はユダヤ系カナダ人だが、ナチスドイツ時代、ブルガリア政府は迫害を受けた15万人のユダヤ人を救ってくれたんだ。その中には私の親戚が2人いた。だから、恩返しの意味もあるんだよ」(ヤンク氏)

 ヤンク氏がブルガリアの難民キャンプを訪れると、多くの子供たちが「お父さんが来た!」と駆け寄ってくるという。その姿は、第2次大戦中にナチスの強制収容所からユダヤ人を救出したドイツ人、オスカー・シンドラーを彷彿とさせる。

「欧米メディアでは『ユダヤ人のシンドラー』と呼ばれるね。嬉しいことに、私が助けたシリア難民の数(1218人)はシンドラーが助けたユダヤ人の数(1200人)を超えた。ブルガリアの有力政治家から、『国連と赤十字とユニセフを足してもあなたには到底かなわない』と言われたよ。

 私は常々、世界的な慈善団体がいくつもありながら、なぜ貧しい人たちや難民を助けられないでいるのか疑問に思っている。彼らに寄付されたお金がすべて貧しい人たちに渡っているわけではない。だったら自分でやるしかないわけで、私は資金が尽きるまでシリア難民を支援し続けるつもりだ」(ヤンク氏)

 彼を世界的な慈善事業家として有名にしたエピソードが「ベンガジ6」の救出だ。2006年、リビアのベンガジで出稼ぎ中のブルガリア人看護師とパレスチナ人医師計6名が、「子供たちを意図的にエイズ感染させた」との疑いをかけられ、リビア政府から死刑判決を受けた。

「当時、私はアリの力を借りてリビアに乗り込み、カダフィ大佐と交渉した。カダフィは『リーダー』と呼ばれるのが好きな男だった。

 私はアリのサイン入りボクシンググローブを彼にプレゼントした。それがとても気に入られて交渉の大きな武器になったんだ。今だから本当のことを言うけど、アリのサインを真似て僕自身が書いたものだったんだけどね(笑い)」(ヤンク氏)

 ヤンク氏の交渉は実を結び、2007年7月、6人の身柄はブルガリア政府に引き渡されたのだった。

※週刊ポスト2014年10月10日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

学習院初等科時代から山本さん(右)と共にチェロを演奏され来た(写真は2017年4月、東京・豊島区。写真/JMPA)
愛子さま、早逝の親友チェリストの「追悼コンサート」をご鑑賞 ステージには木村拓哉の長女Cocomiの姿
女性セブン
【中森明菜、期待高まる“地上波出演”】大ファン公言の有働由美子アナ、MC担当番組のために“直接オファー”も辞さない構え
【中森明菜、期待高まる“地上波出演”】大ファン公言の有働由美子アナ、MC担当番組のために“直接オファー”も辞さない構え
女性セブン
被害者の平澤俊乃さん、和久井学容疑者
《新宿タワマン刺殺》「シャンパン連発」上野のキャバクラで働いた被害女性、殺害の1か月前にSNSで意味深発言「今まで男もお金も私を幸せにしなかった」
NEWSポストセブン
NHK次期エースの林田アナ。離婚していたことがわかった
《NHK林田アナの離婚真相》「1泊2980円のネカフェに寝泊まり」元旦那のあだ名は「社長」理想とはかけ離れた夫婦生活「同僚の言葉に涙」
NEWSポストセブン
尊富士
5月場所休場の尊富士 ケガに苦しみ続ける相撲人生、十両転落で「そう簡単に幕内復帰できない茨の道」となるか
NEWSポストセブン
公式X(旧Twitter)アカウントを開設した氷川きよし(インスタグラムより)
《再始動》事務所独立の氷川きよしが公式Xアカウントを開設 芸名は継続の裏で手放した「過去」
NEWSポストセブン
大谷翔平の妻・真美子さんを待つ“奥さま会”の習わし 食事会では“最も年俸が高い選手の妻”が全額支払い、夫の活躍による厳しいマウンティングも
大谷翔平の妻・真美子さんを待つ“奥さま会”の習わし 食事会では“最も年俸が高い選手の妻”が全額支払い、夫の活躍による厳しいマウンティングも
女性セブン
広末涼子と鳥羽シェフ
【幸せオーラ満開の姿】広末涼子、交際は順調 鳥羽周作シェフの誕生日に子供たちと庶民派中華でパーティー
女性セブン
現役を引退した宇野昌磨、今年1月に現役引退した本田真凜(時事通信フォト)
《電撃引退のフィギュア宇野昌磨》本田真凜との結婚より優先した「2年後の人生設計」設立した個人事務所が定めた意外な方針
NEWSポストセブン
林田理沙アナ。離婚していたことがわかった(NHK公式HPより)
「ホテルやネカフェを転々」NHK・林田理沙アナ、一般男性と離婚していた「局内でも心配の声あがる」
NEWSポストセブン
世紀の婚約発表会見は東京プリンスホテルで行われた
山口百恵さんが結婚時に意見を求めた“思い出の神社”が売りに出されていた、コロナ禍で参拝客激減 アン・ルイスの紹介でキャンディーズも解散前に相談
女性セブン
猛追するブチギレ男性店員を止める女性スタッフ
《逆カスハラ》「おい、表出ろ!」マクドナルド柏店のブチギレ男性店員はマネージャー「ヤバいのがいると言われていた」騒動の一部始終
NEWSポストセブン