暗い映画館の中で、慌ただしい日常から解放され、心も無にしてボーっと映像の世界に身を浸すと、リフレッシュされると長野県の諏訪中央病院名誉院長でベストセラー『がんばらない』で知られる鎌田實医師はいう。いま映画館で見られる映画の中から、『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』を鎌田氏が紹介する。
* * *
一時期は斜陽産業と呼ばれた映画がこのところ元気だ。今回はキーワードを「言葉」にこだわって、おもしろい映画をカマタ流にセレクトしてみた。『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』だ。エニグマと名付けられたナチスドイツの秘密の暗号を解析しようと、イギリスの言語学者やチェスのチャンピオンなどが集められる。その中に天才数学者のアラン・チューリングがいた。実在の人物である。
彼はもともと傲慢で、仲間と上手に付き合えない。だが敵の言葉の暗号を解きたいという執念は人一倍あり、万能計算機、今で言うところのコンピューターを作り上げる。その計算機に「クリストファー」という名前をつける。その由来は彼の初恋の相手の名前だ。そう、アランは同性愛者だったのである。
世界の誰もが解析できなかったエニグマを秘密兵器「クリストファー」が解析していく。しかし、暗号のなかの「言葉」が解析されたことが分かると、ナチスがさらにエニグマを複雑化するリスクがあるため、解析できていないふりを終戦まで続けた。戦いも恋愛も、われわれは「言葉」に左右される。
一説によれば、この解析で、連合軍側の1400万人市民が守られ、戦争の終結を2年早めたとまで言われている。しかし、当時のイギリスでは同性愛は犯罪だった──。
2009年、アランの死後50年以上を経てイギリス政府は「彼の処罰はまったく遺憾だった」と表明。2013年には、エリザベス女王が有罪判決の死後恩赦を認めた。
※週刊ポスト2015年5月1日号