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ISに洗脳されたイスラム教徒 シーア派財産奪ってよいと解釈

 長野県の諏訪中央病院名誉院長でベストセラー『がんばらない』で知られる鎌田實医師は、2004年からイラク支援を開始し、近著に『「イスラム国」よ』(河出書房新社)があるように、現在も定期的に現地を訪れ支援を続けている。今年4月にイラクを訪れた鎌田氏が、現地で知ったイスラム国(IS)によって壊滅的なダメージを受けている人々の様子を報告する。

 * * *
 4月8日、懸案だったイラク難民キャンプの巡回診療に出発した。北イラクのアルビルから車で3時間かけてドホークへ。さらに2間かけてシリア国境沿いの小さな村に入った。川の向こうは、イスラム国(IS)がもっとも暴れている、シリアである。

 イラクの北部、ティクリートのスペイサー基地では、ISに攻撃を受けた昨年6月、2000人近いイラク政府軍が投降した。助けてもらえると思ったから彼らは投降したようだが、その兵士たちのほとんどは虐殺されてしまったという。ちょうど僕がイラクに滞在中、その全貌が徐々に明らかになってきていた。

 ティクリートを奪還したとき、ISに屈服したスンニ派の住民がリンチにあったり、財産を強奪されたとも聞いた。そうやって暴力の連鎖は果てしなく続いていく。

 僕はモスルから脱出してきた人たちに会った。実は、今年5月からモスルの奪還作戦が始まると噂されているのだが、奪還されたらモスルに戻るつもりかと僕は訊いた。するとその中のクリスチャンたちが口を揃えて「もう帰らない」ときっぱり言った。「私たちには、むかし、何人ものイスラム教徒の親友がいました。しかし彼らには手ひどく裏切られました」というのだ。

 クリスチャンへの尊敬は失われ、クリスチャンが住んでいた家は「金がなくても手に入るぞ」と強奪されたらしい。ISに洗脳されたイスラム教徒は、ヤジディー教徒、クリスチャン、シーア派の財産は、全部奪っていいと考えているのだという。

 モスルで病院に勤めていた医師がこうつぶやいた。

「同僚に腕のいい医者がいた。しかし彼はISに洗脳され、まるで人が変わってしまった。この後、イラク政府軍と連合軍がモスルを奪還しても、ISに洗脳された住民がたくさん残るだろうから怖いので、違う場所で生活したい」

 ヤジディー教徒の女性国会議員にも会った。ビアン・ダヒルさん。ISの攻撃を受けたとき、多くの若い女性たちがISの性暴力に遭い、ファルージャの奴隷市場で売られたという。彼女は国連でも積極的にこの事実を発言している。

「ISは私たちのことを生きる価値のない人間だと決めつけている。性奴隷にしたり、虐殺したり、とんでもないことばかりしている」

 彼女の表情は激しい怒りに満ちていた。

※週刊ポスト2015年5月22日号

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