認知症となった親を介護する場合、安全な空間を作ることが重要だ。そのためには、片付けが必要となる。「介護博士」として知られる高室成幸氏が説明する。
「認知機能が衰えてくると、防虫剤を食べ物と思って口に運んだり、多量の薬をのんでしまったり、命にかかわるような事故が起きることがあります。また、痛みや熱さにも鈍感になり、危険な事態もとっさに対処できなくなります。たとえば、ストーブを誤操作したり、倒したりして、火傷や火災の危険が起きた際、認知症の人では被害が大きくなりがちです。認知症の人が自由に手に取れる範囲に、口に入れたら危険なものや、刃物類や火器類などを決して置かず、家族が管理することが必要です」
ただし、親の心情を考えると、慣れ親しんだものはむやみに取り上げないことも大切になる。危険な物を扱うときには家族や介護者が近くにいて見守るなどの工夫が求められる。
認知症が進行すると、掃除や洗濯、片付けや料理など、今までできていたことができなくなる。それでも昔の記憶があるので、そうしたことに取り組むという意欲は衰えない人も多い。
「迷惑だからといって無理矢理やめさせたりせず、極力一緒に付き添い、けがなどをしないように見守ることが大切です。その際、不安そうに監視したり、いちいち文句をつけてしまっては、認知症の人にかえってストレスを与えてしまいます。感謝やねぎらいの言葉を投げかけ、いい気分になってもらうほうが賢明です。やり直す手間は増えても、症状が安定すれば、のちのちの介護も楽になります」(高室氏)
認知症の人は、介護者がイライラして怒ると、時間が経てば何を怒られたかは忘れてしまうが、怒られた時の不快な感情だけが残る。
片付けが完璧である必要はない。介護される人も、介護する人も、過ごしやすい時間と場所を作ることが、「介護と片付け」の最大の目的であることを忘れてはいけない。
※女性セブン2015年10月8日号