義務教育の枠組みが大きく変わりつつある中、「公立一貫校」の選択肢がまたひとつ増えようとしている。
すでに中学校卒業までの9年間、同一校で教育を施す「小中一貫」は、全国の自治体で1000件以上が実践されているが、東京都はこのほど、中高一貫校である都立立川国際中等教育学校(立川市)に6年制の付属小学校を新設する計画をブチ上げた。じつに小中高12年間の一貫教育モデルが完成することになる。
もともと東京都は前都知事の猪瀬直樹氏の時代から小中高一貫教育の構想を持っていた。その狙いはズバリ“専門人材”の育成である。
2013年にまとめられた都の中間報告にも、〈理数を中心に、一人一人の資質や能力を発見し伸長させ、世界に伍して活躍し貢献できる人間を育成する〉と書かれている。系統的・継続的な教育カリキュラムで学習内容を先取りすることで、より専門性の高い有能な人材を数多く輩出しようというのだ。
当初、実験モデル校には理系に強い都立武蔵(中高一貫)などが候補に挙がっていたが、今回、再検討の末に選ばれたのは立川国際だった。
「さすがに小学校の入学段階から理系の適正を見るのは難しいため、グローバル人材の育成を重視する路線に変更した。立川国際は英語教育に力を入れ、在日の外国人枠を設けるなどして特殊なカリキュラムを行っている。
ここに小学校を併設することで、早くから体系的に英語を学ばせ、まとまった期間で留学も後押しするなどして、語学堪能な人材を育てるのが目的だろう」(中学受験の学習塾講師)
だが、子供の理数系の資質を見極めるのが難しいのと同様に、語学習得にも向き不向きがあるのではないか。安田教育研究所代表の安田理氏もこんな懸念を口にする。
「立川国際のように英語の学習時間を多く割き、ムダや重複のないカリキュラムで12年間学べば、文科省が選定したスーパーグローバル大学への進学も容易になるかもしれません。
しかし、在学途中で落ちこぼれる生徒だっているでしょうし、『自分は語学より理系に向いているのかも……』と気付く子だって出てくるでしょう。そんなとき、他校に移りづらい環境では親も子も不幸なだけです。
12年間の一貫教育を施すなら、本来はカリキュラムや進路先を偏らせず、特色があまりない学校のほうが無難だという意見もあるのです」(安田氏)