私立のエスカレーター校よりも学費がかからず、受験の負担がないうえに専門教育まで学べる――。確かに、こんな一貫校なら我が子を入学させたいと思う親も多いだろうが、現実の教育現場は理想通りとはいかない。
「小学生の学力格差は顕著で、スクールカーストやいじめ、親同士の人間関係も複雑です。公立は良い先生もすぐに異動してしまう中、12年間も固定された集団で過ごすのは親子とも精神的にキツイと思います」(都内の公立小学校に子供を通わせる40代女性)
さらに、一貫教育の年数が延びれば延びるほど、他学年との交流や行事のスケジュール、共用施設の大きさ基準をどこに合わせるかなど、さまざまな課題が山積する。
「小中の交流はほとんどないし、行事もバラバラ。校庭はほとんど中学生の部活動が独占していて、小学校低学年の子供たちは遊べない」(首都圏にある小中一貫校の父兄)
こんな状況のまま、一貫校の制度だけ緩和・拡大して、本当に学力向上や有能な人材輩出が見込めるのか。前出の安田氏がいう。
「学校生活でもっとも大切なのは人間関係です。いくら専門性を高めたカリキュラムが用意されていても、先生や生徒同士の人間関係が崩れれば集団全体にも歪みが起きてきます。
6・3・3制の見直しや、小中高一貫校の新設など、現状では制度構築ありきの議論になっていますが、それよりも、学力格差による生徒の転出・編入、計画性を持たせた教員の人事異動、何よりも豊かな人間関係が築けるコミュニティーとして機能するかどうかを考えるほうが先決ではないでしょうか」
国も小中一貫教育にお墨付きを与える法改正をし、来年4月より「義務教育学校」が開校できるようになった。東京の構想も含め、今後ますます一貫校が増えることになりそうだが、「教育の本分」を忘れた単なる統廃合なら何の効果も期待できない。