国内

外道クライマー「僕が沢登りに異常なこだわりをもつ理由」

台湾のチャーカンシー・大ゴルジュを行く宮城公博さん

 2012年、世界遺産・那智の滝を登り、軽犯罪法違反で逮捕、およそ3時間後に釈放された宮城公博さん。事件により仕事を失い、空いた時間で、国内外の沢を目指すことに。宮城さんは自称“沢ヤ”。沢ヤとは「沢登りに異常なこだわりをもった偏屈な社会不適合者」で、初挑戦にこだわり、数々の初登攀記録を打ち立ててきた。

 著書『外道クライマー』(集英社インターナショナル)では、人跡未踏の地への飽くなき探検を、時にバカバカしく、時に情けなく綴っている。高いクライミング技術と経験を持ちながら、シリアスな探検家から程遠い脱力系・お笑いキャラ。しかし、折に触れて顔をのぞかせる反骨精神。現代の絶滅危惧種・沢ヤの素顔に迫る。

 * * *
――登山、あるいはクライマーの世界にはいろんなジャンルがありますが、宮城さんはその中でも、“沢ヤ”なのですね。なぜ沢にこだわるのですか?

宮城:沢登りのゴルジュ突破が、僕の肌に合ったんです。20代後半くらいまでは、ヒマラヤの存在が自分の中で大きくて、巨壁を登りたい、初登攀したいという思いが強かった。そういう挑戦を通して、自分のクライミングというものが固まってきたときに、「ゴルジュ」に出会ったんです。ゴルジュというのは、両岸が立ち上がり挟まった水路のことで、フランス語で「喉」の意味。廊下とも言います。高い壁に囲まれた、水の流れる、谷底のくらーいところ。そこを、泳いだり、肩車したり、壁にはいつくばったりしながら突破する。これが楽しかった。

 一概には言えませんが、ヒマラヤの世界ってシリアスなんです。世界一の山の頂を目指す、その風景を思い描くだけで、神々しい。一方でゴルジュの世界には、どこかバカバカしさが漂っているんです。なんでこの狭い、じめじめしたところを、そこまでして行こうとするの? っていうシュールさもいい。加えて探検的な深みや、誰も見たことないところに行く面白さもあって、はまりました。もちろん、雪山や氷壁も今もやりますけど。

――人跡未踏を求める宮城さんは、2012年、那智の滝に入って、逮捕されます。あの事件をどう捉えていらっしゃいますか?

宮城:世間に注目されようとか、神を冒涜しようとかいう意図は全くなかったんです。誰も登ったことのない、日本一の滝を登りたい、という欲だけだった。結果的に色んな方にご迷惑をおかけしたことは非常に反省していますし、僕自身7年間務めた仕事を失って、社会的制裁を受けました。それ以降は、単発労働をしながら、沢登り中心の生活を送っています。本に書いた「タイのジャングル46日間の沢登り」も、結果的にあの事件でヒマになったから行けた。そういう意味で、反省はしているけど、沢ヤとして、後悔はしていません。

――「タイのジャングル46日間の沢登り」では、人跡未踏かもしれない大渓谷を探検しています。激流に溺れかけたり、飢えに耐えたりする過酷な生活の中で、スマホゲームや中学生男子のような会話に興じていらっしゃいますね。

宮城:ギャップに萌えていただけると嬉しいです(笑)。

――そうしたギャップは、宮城さんの個性でしょうか? それとも戦略ですか?

宮城:うーん、沢登りに限らず、極地探検でも、四六時中シリアスな状態って考えられないんですよ。一歩間違えれば死ぬようなギリギリの時間もあるんですが、そこを超えると、誰でも普通に歩けるような場所に出たりする。46日間やってれば、1日3時間しか移動しない日だってあるわけです。そうしたありのままの探検を、僕は見せたいんですよね。こんなに愚かしいんですよ、そして楽しいんですよっていうのを伝えたいなと。

――楽しさを伝えて、もっと多くの人に沢登りをやってもらいたい?

宮城:いや、誰もやらないでしょう(笑)。一つ言えるのは、僕らのやっていることって、伝統的な登山からすると「王道」なんです。最近は山ガールやボルダリングが流行って、登山のすそ野が広がっていますよね。どちらかというとライトな方向に。それはいいことだと思うし、そういう時流にのって登山に興味を持った人に、僕らの世界のことも知ってもらいたいんですよ。沢ヤは、野蛮で原始的で、いまや「外道」なんて言われていますが、登山の世界というのは、本来自由で、何でもあり。それを、僕が肩肘張らない程度にお知らせできたらうれしいなと。

関連記事

トピックス

なかやまきんに君が参加した“謎の妖怪セミナー”とは…
なかやまきんに君が通う“謎の妖怪セミナー”の仰天内容〈悪いことは妖怪のせい〉〈サントリー製品はすべて妖怪〉出演したサントリーのウェブCMは大丈夫か
週刊ポスト
令和6年度 各種団体の主な要望と回答【要約版】
【自民党・内部報告書入手】業界に補助金バラ撒き、税制優遇のオンパレード 「国民から召し上げたカネを業界に配っている」と荻原博子氏
週刊ポスト
グラビアから女優までこなすマルチタレントとして一世を風靡した安田美沙子(本人インスタグラム)
《過去に独立トラブルの安田美沙子》前事務所ホームページから「訴訟が係属中」メッセージが3年ぶりに削除されていた【双方を直撃】
NEWSポストセブン
阿部詩は過度に着飾らず、“自分らしさ”を表現する服装が上手との見方も(本人のインスタグラムより)
柔道・阿部詩、メディア露出が増えてファッションへの意識が変化 インスタのフォロワー30万人超えで「モデルでも金」に期待
週刊ポスト
エンゼルス時代、チームメートとのコミュニケーションのためポーカーに参加していたことも(写真/AFP=時事)
《水原一平容疑者「違法賭博の入り口」だったのか》大谷翔平も参加していたエンゼルス“ベンチ裏ポーカー”の実態 「大谷はビギナーズラックで勝っていた」
週刊ポスト
中条きよし氏、トラブルの真相は?(時事通信フォト)
【スクープ全文公開】中条きよし参院議員が“闇金顔負け”の年利60%の高利貸し、出資法違反の重大疑惑 直撃には「貸しましたよ。もちろん」
週刊ポスト
店を出て並んで歩く小林(右)と小梅
【支払いは割り勘】小林薫、22才年下妻との仲良しディナー姿 「多く払った方が、家事休みね~」家事と育児は分担
女性セブン
大の里
新三役・大の里を待つ試練 元・嘉風の中村親方独立で懸念される「監視の目がなくなる問題」
NEWSポストセブン
テレビや新聞など、さまざまなメディアが結婚相手・真美子さんに関する特集を行っている
《水原一平ショックを乗り越え》大谷翔平を支える妻・真美子さんのモテすぎ秘話 同級生たちは「寮内の食堂でも熱視線を浴びていた」と証言 人気沸騰にもどかしさも
NEWSポストセブン
「特定抗争指定暴力団」に指定する標章を、山口組総本部に貼る兵庫県警の捜査員。2020年1月(時事通信フォト)
《山口組新報にみる最新ヤクザ事情》「川柳」にみる取り締まり強化への嘆き 政治をネタに「政治家の 使用者責任 何処へと」
NEWSポストセブン
行きつけだった渋谷のクラブと若山容疑者
《那須2遺体》「まっすぐ育ってね」岡田准一からエールも「ハジけた客が多い」渋谷のクラブに首筋タトゥーで出没 元子役俳優が報酬欲しさに死体損壊の転落人生
NEWSポストセブン
愛子さま
【愛子さま、日赤に就職】想定を大幅に上回る熱心な仕事ぶり ほぼフルタイム出勤で皇室活動と“ダブルワーク”状態
女性セブン