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戌井昭人氏 「どじょうすくい」の動きの奥深さに圧倒される

 散歩ばかりしているという作家で劇団「鉄割アルバトロスケット」主宰の戌井昭人氏の週刊ポスト連載「なにか落ちてる」より、島根県安来市でならってきた「どじょうすくい」の奥深さについて、体験談を交えてお届けする。

 * * *
 島根県の安来(やすぎ)に行って、どじょうすくいを習ってきました。

 どじょうすくいは、踊りの、どじょうすくいでして、手ぬぐいをほっかむりして、穴の空いた銭に紐をくくりつけ、紐を耳に引っ掛けて銭が鼻の頭にくるようにして、ザルを持って踊るあれです。

 どじょうすくいは、安来節にのって踊ります。安来といえばどじょうすくい、どじょうすくいといえば安来というくらいで、安来には、田んぼの真ん中に立派な安来節演芸館があり、まずは、そこに向かいました。

 安来の港には、北前船がやってきていたので、いろいろ謡(うた)が入ってきて、これらが混じり合い、安来節が完成されていったらしいのです。

 また安来節といっても、ひとつではなく、いろいろな謡があり、その後、誰かが、安来節にのせて踊りはじめたのが、どじょうすくいのはじまりらしく、実際に安来では、どじょうもよく採れたそうです。

 演芸館で、安来節についていろいろ学んだあと、どじょうすくいの名人の家に行きました。名人は、演芸館からすぐのところで、煎餅を焼いて売っていました。この二階に、練習用のステージがあって、ここで踊りを習うことができました。

 まずは名人の踊りを見させてもらったのですが、動きの奥深さに圧倒されました。滑稽なんだけれど、その奥に何かありそうで、やっぱり何もないのかなと思わせる素晴らしさ。

 その後、わたしも衣装を着て習うことになりました。けれども、これが難しくて、腰の使い方が、どうにもうまくいきません。基本の動きで、腰を低くして前後に振りながら歩くというのがあるのですが、名人は、上半身が平行移動しているような感じで無駄な動きがないのです。しかしながら、わたしの場合は、上半身がブレまくってしまうのです。

 この腰の使い方をマスターしたいと深く思いました。その後も、汗まみれになって指導をうけたのですが、やはり自分で納得いくような、腰使い、踊りはできませんでした。

 帰りに、「これで練習してください」と名人から指導DVDをいただきました。あと名人の焼いた瓦煎餅もいただきました。

 家に帰って、瓦煎餅を食べながら、DVDを見て練習しているのですが、やはり腰がうまく動きません。いつの日か、「それでは、ちょっとやりますか」などと言ってどじょうすくいを、さらりと踊れたら、とてもイカしてると思うので、とにかく練習を続けようと思っています。

●いぬい・あきと/1971年東京都生まれ。作家。「鉄割アルバトロスケット」主宰。2008年小説家デビュー。『ひっ』『びんぞろ』『まずいスープ』『どろにやいと』が芥川賞候補に。『すっぽん心中』で川端賞受賞。著作『俳優・亀岡拓次』が映画化。散歩ばかりしている。

※週刊ポスト2016年5月20日号

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