経済大国ニッポンを支えた昭和の偉大な名経営者は必ず「格言」を持っていた。彼らはその言葉で社員を、そして社会を成長させていた。“言葉の経営学”ともいえる金言葉の数々には、日本経済復活の大きなヒントが詰まっている。
●土光敏夫(東芝、IHI元社長/1896~1988年)
〈沈まない船はない。つぶれない企業はない。すべては人間次第だ。一般社員は、これまでより三倍働け、重役は一〇倍働く、僕はそれ以上に働く〉
※『清貧と復興 土光敏夫100の言葉』(出町譲著、文春文庫)より
経団連会長も務めた土光は、その猛烈な仕事ぶりから「土光タービン」と称された。この言葉は1965年に経営危機に陥った東京芝浦電気(現・東芝)を立て直すため、社長として乗り込んだ時に語ったもの。会計問題で揺れる東芝経営陣に土光の言葉はどう響くか。
●松下幸之助(パナソニック創業者/1894~1989年)
〈世間は誰ひとりとしてきみの成功を邪魔したりせんよ。やれないというのは、外部の事情というよりも、自分自身に原因があるものなんや。外部のせいではない、理由は自分にあるんだということを、常に心しておく必要があるな〉
この言葉は参議院議員の江口克彦氏が若い頃、松下幸之助から送られた言葉だ。江口氏は松下が亡くなるまでの22年間、秘書として近くで仕えた松下イズムの継承者である。
「経営の神様、松下幸之助の言葉は新鮮な“気付き”に満ちている。彼は人間学の大家だった。『人間観の研究』という勉強会を立ち上げ、人間を見つめ続けた。我々もスマホやパソコンばかりを見ているのではなく、人間としっかり向き合ってみる必要があるのではないだろうか」(作家・北康利氏)
●本田宗一郎(ホンダ創業者/1906~1991年)
〈いや、いいんだよ、その油まみれの手がいいんだ。俺は油の匂いが大好きなんだよ〉
※『経営者100の言葉』(山口智司著、彩図社)より
社員から「オヤジ」と慕われた本田は全国の工場を訪問した際、汚れを気にして握手をためらう作業員の手を握りしめ、「油まみれの手がいいんだ」と語りかけた。
●豊田英二(トヨタ自動車元会長/1913~2013年)
〈いかに立派な社是、社訓でも、これが一つの社風になるまで年期をつみ上げないと物にならない。そして、社風なき会社からは、立派な人材や製品は生まれてこない〉
※『あの会社のスゴい社訓』(浜口直太著、晋遊舎新書)より
創業家出身で5代目社長となった英二は今日のトヨタの基盤を作り、「中興の祖」と称される。25年に及ぶ社長・会長時代を通じてトヨタの「社風」を築き、「モノづくりは人づくり」との理念を浸透させた。
※週刊ポスト2016年6月3日号