延命治療はいらないと宣言しても、結局病院側が治療してしまうケースは珍しくない。本人と家族がそのつもりでいても、医師側から治療を行なうべきというプレッシャーをかけられることが多い。延命治療は診療点数を稼げるので、よい売り上げになるからだという現実もある。その一方で、医師は医療行為を「行なわない」ことのを追及されるリスクを恐れているという。
実際にこんなケースがあった。
1998年、川崎協同病院で、女性医師がぜんそくの発作で意識不明となった当時58歳の男性の人工呼吸器のチューブを抜き、さらに准看護師に指示して筋弛緩剤を投与して死亡させ殺人罪に問われた。
医師は「男性の家族の強い要請でチューブを抜いた」と無罪を主張したが、2009年12月に最高裁で有罪が確定した。懲役1年6月、執行猶予3年。さらに医業停止2年間の処分が下った。医師にとって治療を止めることは「殺人罪」に問われるリスクがあるのだ。医療問題に詳しい古賀克重・弁護士が指摘する。
「生命維持治療を中止することについて、医師の免責を規定した法律がない。厚労省や日本救急医学会などがガイドラインを出していますが、それも免責を保証するものではありません。延命治療を中止したことで訴えられる危険は今もあるのです」
※週刊ポスト2016年7月22・29日号