いまだに分からないことが多い糖尿病。そこに圧倒的な量と質の「健康診断データ」で迫ろうとする研究者たちがいる。人口わずか8500人足らずの福岡県糟屋郡久山町で、50年以上にわたって積み重ねられた「ヒサヤマ・スタディ」だ。久山町研究は国際的にも高い評価を得ている。その最大の理由が、これまで亡くなった住民のうち75%以上が「病理解剖」を受けている点にある。
生前の住民の健康データだけでなく、死後にも解剖することで正確な死因を特定できる。病気につながる変調がいつから始まっていたかを改めて確認するのである。手間はかかるが、客観性の高い研究と評価される所以だ。
アメリカでは、同じような手法で特定エリアの住民を追跡して虚血性心疾患の発生因子を追跡したフラミンガム研究(※注)が有名だが、そこでも解剖までは行なわれていなかった。
【※注:米国マサチューセッツ州の人口3万人の町フラミンガムで虚血性心疾患の発症状況を調査するために1940年代から行なわれた疫学研究】
久山では住民の死亡情報が入ると研究員が急行する。
「先生、こらえてつかっせ(勘弁してもらえないか)」
と渋る遺族と膝詰めで話し、頭を下げ、酒も酌み交わしてその言葉に耳を傾けてきた。
研究員たちの地道な努力で住民との信頼関係が形成され、すでに現在までの解剖例は2400人を超えているという。
「最近でいうと、2012年の一斉健診は3247人を対象に1年近くかけました。検査項目の打ち合わせなど町役場側とはその1年前から準備を進めます。啓発のために戸別に訪ねていくと、住民から“ドブ板選挙みたいだね”といわれることもあります」(清原氏)
※週刊ポスト2016年9月16・23日号