その結果、ついに2016年8月には在庫価格が3198万円で、前年比でマイナス0.1%になった。在庫価格がマイナスになったのは2015年12月のマイナス1.5%以来のこと。新規登録価格や成約価格は前年比では上昇が続いているが、これも近いうちにマイナスに転じるのではないだろうか。
事実、成約価格については前年比ではプラスでも、前月比でみるとマイナスの月が増えつつあり、市場は弱含みになっているのではないかという見方も強まっている。こうした現状をみれば、物件の売却、買い換えなどを考えているのであれば、早めに売り逃げるのが得策になるのかもしれない。
首都圏の中古マンションでみると、2016年8月の1平方メートル当たり成約価格の平均は44.82万円に対して、新規登録価格の平均は50.81万円、在庫価格の平均は50.28万円と在庫価格と成約価格には12%ほどの乖離がある。
これだけの差があれば、買い主は様子見傾向を強めるばかりか、足元をみての値引き交渉をしたくなるのは当然のこと。売り手はそれを前提に値付けする必要が出てくる。
たとえば、成約価格レベルまで下げてしまうとさらに足元をみられるので、半ばをとって成約価格の平均より5%アップ程度の値付けにして、周辺の競合物件との差別化を図り、まずはお客を見つけることが肝心。その上で成約価格の平均値程度までの値引きは覚悟して交渉にあたれば、何とか買い手を確保できるかもしれない。
そうしないで、いつまでも強気の値付けで客を待っていても野ざらしにばかりで、段階的に値下げしても、その足元もみられてさらなる値下げを求められることになる。
本当に売りたいのであれば、いまが決断のときだろう。というのも、現在の住宅市場のなかで唯一無比のプラス要因となっている超低金利が買い主の意識を後押ししている。全期間固定金利でも0%台で利用できる今は、何といっても最大のチャンスのときであり、各種の調査で大半の人が「買い時」としており、買えるものなら買っておきたいという意識は強い。
ことに、住宅ローン金利は融資実行時の金利が適用されるため、メガマンションだと適用されるのは2年先、3年先の金利であり、現在の超低金利ではなくなっている可能性もある。しかし、中古なら通常は契約から3か月以内に引き渡しを受けて、融資が実行されるので、超低金利の恩恵を受けやすいというメリットがある。
そうした潜在意識のある買い手に対して適正価格を提示できれば、マッチングはさほど難しいことではないかもしれない。
●文/山下和之(住宅ジャーナリスト)