文化庁が21日に発表した調査によると、若者のあいだにいわゆる「ら抜き言葉」がほぼ定着しているようだ。嘆かわしいと憤慨しているおっさんに、大人力コラムニストの石原壮一郎氏がその対処方法を伝授する。
* * *
「今年は初日の出が見られた」と「今年は初日の出が見れた」──。
「早く出られる」と「早く出れる」──。
文化庁が21日に発表した2015年度「国語に関する世論調査」によると、いずれも後者の「ら抜き言葉」を使う人が多数派になったという結果が出ました。これは1995年度の調査開始以来、初めてのことです。10代の若者に限ると、8割近くが「見れた」を使っているとか。「出れる」も、10~20代の6割以上が使っています。
好き嫌いはさておき、もはや「ら抜き言葉」は、日本語の中で定着したと言っていいでしょう。そんな現状を踏まえつつ、大人として「ら抜き言葉」の定着をどう受け止めるか。アピールしたい自分像に合わせて、効果的な語り方を考えてみたいと思います。
●「ちょっと知的で頼りになるオジサマ」に見られたいあなたに
自覚があるかどうかはさておき、こういう自分像に憧れを抱いている中年男性は少なくありません。多くは、会社ではさほど人望はなく、どうでもいいことにケチはつけるけど、自分では動こうとしないし責任も取ろうともしないタイプです(註:個人の偏見です)。
知的な一面をお手軽にアピールしたいオヤジにとって、「日本語の乱れ」は極めておいしいテーマ。若い部下や後輩が「的を得た意見ですね」なんて言おうものなら、鬼の首を取ったように「おいおい、的は得るもんじゃなくて、射るもんだよ」と冷笑します。じつは最近は「『得る』もアリでけっして誤用ではない」というのが専門家のあいだでも定説になっていますが、そんなふうに指摘しても「俺は、そんなバカな話は聞いたことない!」と一蹴して、己の情報感度の鈍さを正当化してくるでしょう。
といった一面があるのはさておき、たとえば若い女性社員が「午後の商談、私は1時には出れそうです」と言ったら、望ましい自分像を印象づけるチャンス。
「なるほど『出れそう』と来たか。まあ、いまの若い人のあいだではそれが主流かもしれないけど、本来は日本語として間違いだってことは覚えておいたほうがいいね」
そんなふうにネチネチと説明すれば、仮に相手が「うわー、うざいオヤジ」という呆れた視線を向けてきたとしても、それを「ちょっと知的で頼りになるオジサマ」を見る視線だと勘違いすることができるでしょう。さらに、「相手の年齢における常識を尊重しつつ、きちんと導いてあげられるナイスな俺」にウットリすることも可能です。