現在社会では、誰もが発症する可能性があるといわれる白内障。目の中でレンズの役割をする水晶体が白く濁り、見えにくくなる病気で、人工レンズを入れる手術が唯一の治療法とされている。また、特定の薬を服用中の人は手術のリスクが高まる恐れもある。クイーンズ・アイクリニック理事長の荒井宏幸さんが解説する。
「男性で、前立腺肥大の薬である『α1遮断薬』をのんでいると、術中虹彩緊張低下症候群という合併症が起こり、瞳孔が狭くなって、手術の難易度が上がるケースがあります。その場合はもしもの事態に備え、必要な物品や薬剤を準備する必要があるので、必ず事前に医師に報告をしてください」(荒井さん)
さらに知っておきたいのが、人工レンズのリスクだ。白内障の手術では、濁った水晶体を除去し、人工のレンズと入れ替える。手術で水晶体と入れ替える人工レンズには、ピントが合うのが「近く」か「中間」か「遠く」のいずれか一点の単焦点レンズと、近くにも遠くにもピントが合う多焦点レンズの2種類がある。
単焦点レンズは健康保険が適用され、手術費用は3割負担で片目5万円ほど。多焦点レンズは自由診療(※)のため片目30万~50万円と高額だが、眼鏡をかける必要がなくなる。
(※民間の医療保険に先進医療特約が付帯されていれば、保険会社によっては補償対象となる)
一見、魅力的な多焦点レンズだが、全員に必ずしも合うわけではない。強い光を眩しく感じやすくなるため、夜、車を運転することが多い人などには危険が伴うので向いていない。それ以外にも、多焦点レンズには注意が必要だ。彩の国東大宮メディカルセンター眼科部長の平松類さんが解説する。
「多焦点レンズを選ぶと、遠距離から近距離までピントの合う範囲が広まる一方で、単焦点レンズより見えているものの『鮮明度』が劣ります。『見え方』に不満を抱き、せっかく何十万円もの多焦点レンズを手術で入れたのに、再手術して取り替える人も一定数います。『高いレンズにしたからよく見えるはず』と期待していると、思わぬ落とし穴があるんです」(平松さん)
白内障手術の名医として知られる、筑波大学医学医療系眼科教授の大鹿哲郎さんも生活に合わせたレンズの選び方が重要だという。
「よく、加入している医療保険の先進医療特約を使わないと損だと思って多焦点レンズを選ぶ人がいますが、術後に後悔しては意味がない。事前にきちんと医師と相談して、目の症状や状況に合ったレンズを選んでほしいですね」(大鹿さん)
そしてもう1つ、知っておきたいことがある。白内障の手術には視力回復以外の意外なメリットもある。
「白内障の手術で視力が回復したら、患者さんのうつ状態が改善したケースがあります。目が見えづらいと日常生活のさまざまな場面で困難が生じて、気分が沈んでうつ状態になりやすい。家族がうつ病と思っていたら、実は白内障が原因だったということもあるので、うつっぽくなったら一度は眼科でもチェックしてほしいですね」(平松さん)
※女性セブン2016年11月10日号