2015年9月、ドイツの自動車メーカー・フォルクスワーゲンの排出ガス規制不正ソフト問題が発覚した。翌2016年には三菱自動車工業の燃費データ改竄が明るみに出た。どちらのケースも成長を目指して競争に勝たんがために行われた不正だった。同じ頃、東芝も不正会計が行われていたことが発覚した。

 無限空間を前提に自動車産業は「より速く、より遠くに」を、家電産業は「より合理的に」を実現してくれた。しかし、それが限界に達したにもかかわらず無理な成長を望んだ結果、これらの不正を犯さざるを得なかった。

 資本主義が限界に達すれば、資本主義の主役たる株式会社も当然、変容せざるを得ない。だから、トヨタは先んじて手を打ったのだ。

 私は21世紀の原理は、「よりゆっくり、より近く、より寛容に」であると思っている。これを企業に当てはめれば「よりゆっくり」は減益計画を立てることであり、「より近く」は現金配当を止めることである。

 減益で十分と考えれば、よりゆっくりと企業の行く末を考えることができる。また、すでに資本は潤沢なのだから地球の裏側から株主を募る必要はなくなる。配当を現物給付にすれば遠くの株主は自然と離れていく。そして「より寛容に」とは、「より合理的に」の反対概念で、「贈与」を意味する。つまり応分の税を企業も個人も負担するということだ。

 近代資本主義の「より速く、より遠く、より合理的に」とは異なる成長のかたちを見出すには、価値観の大転換が必要だ。これを先取りした人こそが、未来において活躍できるはずだ。

●みずの・かずお/1953年愛知県生まれ。証券会社勤務を経て、民主党政権では政府の審議官を歴任。20万部を超えるベストセラーとなった『資本主義の終焉と歴史の危機』(集英社新書)の続編となる近著『株式会社の終焉』(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)が話題。

※SAPIO2017年2月号

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