国内

正親町天皇と織田信長が対立した「蘭奢待切り取り事件」

知られざる暗闘があった(写真:アフロ)

 天皇と為政者のすれ違いは、時に激しい衝突に発展することもあった。歴代天皇と時の権力者の対立の歴史から、正親町天皇と織田信長が、蘭奢待(らんじゃたい)切り取りで対立した事件について、歴史家の八柏龍紀氏が解説する。

 * * *
 戦国時代、彗星の如く台頭した織田信長は、天皇の権威を利用して勢力拡大を図ろうとしていた。

 一方、応仁の乱以降、長びく朝廷財政の悪化のなか即位した正親町天皇は、信長の台頭に「ご褒美」の綸旨(りんじ、天皇の意を伝える奉書)や官職を与えて、引き換えに様々な財政援助を引き出そうとした。

 その意味で両者は一見、“持ちつ持たれつ”の関係であったが、信長は正親町天皇からの度重なる無心に業を煮やし、東宮である誠仁親王の元服費用を求められた際は、質の悪い悪銭を進上し抗議の意を示したというエピソードもある。

 そんな両者の争いが鮮明になったのが、天正2年(1574年)に起きた「蘭奢待切り取り事件」だ。蘭奢待は聖武天皇の遺宝とされる香木で、東大寺正倉院に収蔵される。「天下第一の名香」と謳われ権力者に重宝された。信長は、自身の権力を誇示すべく、この蘭奢待を切り取る勅許を正親町天皇に求めたのである。

 正親町天皇は、「そんなことをすれば聖武天皇の怒りが天道にまで響く」と怒りを顕わにしたが、最終的には許さざるをえなかった。

 大名間の抗争が激化する戦国時代にあって、朝廷の役割には、それらの抗争を鎮め「和睦」を促す、いまで言う「バチカン」的な役割があった。正親町天皇もまた、時の権力者である有力武将や寺社と円満な関係を築くため、全方位に配慮せざるを得なかったのだ。

■取材・構成/池田道大

●やがしわ・たつのり/秋田県生まれ。慶應義塾大学法学部・文学部卒業。高校教師、大手予備校講師などを経て、現在、淑徳大学エクステンションセンター講師、京都商工会議所主催「京都検定講座」講師。日本近現代史、日本文化精神史、社会哲学など幅広いテーマで執筆、論評、講演を行う。『戦後史を歩く』(情況出版刊)、『日本の歴史ニュースが面白いほどわかる本』(中経出版刊)など著書多数。近著に『日本人が知らない「天皇と生前退位」』(双葉社刊)がある。

※SAPIO2017年3月号

関連記事

トピックス

無罪判決に涙を流した須藤早貴被告
《紀州のドン・ファン元妻に涙の無罪判決》「真摯に裁判を受けている感じがした」“米津玄師似”の男性裁判員が語った須藤早貴被告の印象 過去公判では被告を「質問攻め」
NEWSポストセブン
激痩せが心配されている高橋真麻(ブログより)
《元フジアナ・高橋真麻》「骨と皮だけ…」相次ぐ“激やせ報道”に所属事務所社長が回答「スーパー元気です」
NEWSポストセブン
Instagramにはツーショットが投稿されていた
《女優・中山美穂さんが芸人の浜田雅功にアドバイス求めた理由》ドラマ『もしも願いが叶うなら』プロデューサーが見た「台本3ページ長セリフ」の緊迫
NEWSポストセブン
トンボをはじめとした生物分野への興味関心が強いそうだ(2023年9月、東京・港区。撮影/JMPA)
《倍率3倍を勝ち抜いた》悠仁さま「合格」の背景に“筑波チーム” 推薦書類を作成した校長も筑波大出身、筑附高に大学教員が続々
NEWSポストセブン
12月6日に急逝した中山美穂さん
《追悼》中山美穂さん、芸能界きっての酒豪だった 妹・中山忍と通っていた焼肉店店主は「健康に気を使われていて、野菜もまんべんなく召し上がっていた」
女性セブン
自宅で亡くなっているのが見つかった中山美穂さん
【入浴中の不慮の事故、沈黙守るワイルド恋人】中山美穂さん、最後の交際相手は「9歳年下」「大好きな音楽活動でわかりあえる」一緒に立つはずだったビルボード
NEWSポストセブン
結婚披露宴での板野友美とヤクルト高橋奎二選手
板野友美&ヤクルト高橋奎二夫妻の結婚披露宴 村上宗隆選手や松本まりかなど豪華メンバーが大勢出席するも、AKB48“神7”は前田敦子のみ出席で再集結ならず
女性セブン
スポーツアナ時代の激闘の日々を振り返る(左から中井美穂アナ、関谷亜矢子アナ、安藤幸代アナ)
《中井美穂アナ×関谷亜矢子アナ×安藤幸代アナ》女性スポーツアナが振り返る“男性社会”での日々「素人っぽさがウケる時代」「カメラマンが私の頭を三脚代わりに…」
週刊ポスト
NBAロサンゼルス・レイカーズの試合を観戦した大谷翔平と真美子さん(NBA Japan公式Xより)
《大谷翔平がバスケ観戦デート》「話しやすい人だ…」真美子さん兄からも好印象 “LINEグループ”を活用して深まる交流
NEWSポストセブン
(時事通信フォト)
「服装がオードリー・ヘプバーンのパクリだ」尹錫悦大統領の美人妻・金建希氏の存在が政権のアキレス腱に 「韓国を整形の国だと広報するのか」との批判も
NEWSポストセブン
自宅で亡くなっているのが見つかった中山美穂さん
《私には帰る場所がない》ライブ前の入浴中に突然...中山美穂さん(享年54)が母子家庭で過ごした知られざる幼少期「台所の砂糖を食べて空腹をしのいだ」
NEWSポストセブン
亡くなった小倉智昭さん(時事通信フォト)
《小倉智昭さん死去》「でも結婚できてよかった」溺愛した菊川怜の離婚を見届け天国へ、“芸能界の父”失い憔悴「もっと一緒にいて欲しかった」
NEWSポストセブン