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シロツメクサの思い出 おばあちゃんの笑顔と果たせない約束

シロツメクサの思い出を41才主婦が回想(写真/アフロ)

 作家・佐藤愛子さんはベストセラーエッセイ集『九十歳。何がめでたい』で〈当たり障りのない人生なんて、たとえ平穏であったとしてもぬるま湯の中で飲む気の抜けたサイダーみたいなもの〉と綴っている。時に人生には、深い後悔が教えてくれることもある。41才の主婦はそんな思い出を語ってくれた。

 * * *
「明日絶対作ってね、約束よ」

 そう言って走り去る私に、おばあちゃんは笑顔で手を振ってくれました。その姿は今でも忘れられません。なぜ、あの約束を私自身が破ってしまったのか…と。

 小学3年生の時のこと。クラスに馴染めなかった私は、いつも近所の小さな公園でひとり、遊んでいました。園内のベンチには必ず、おばあちゃんが座っていて、時折私に話しかけてくれました。

 そのうち、草笛の吹き方や笹舟の作り方まで教わるように。私は次第に公園に行くのが楽しみになりました。そんなある日、おばあちゃんからシロツメクサの冠の作り方を教えてもらうことになったのです。学校が終わると私は、走って公園に向かいました。

 ところが途中で、クラスメートに遊びに誘われたのです。そして、この日をきっかけに、私はクラスの友達と遊ぶことに夢中になり、おばあちゃんとの約束をすっかり忘れてしまって…。

 約束を思い出したのは、3か月後。季節は春から夏に変わっていました。公園に行きましたが、おばあちゃんの姿はありませんでした。代わりにいつものベンチには見知らぬ男性が座っていました。

 彼は私を見るとハッとした顔をし、なぜか私の名前を呼びます。私は驚き、逃げようとしたのですが、その手にはドライフラワーになったシロツメクサの冠が…。

「母は亡くなるまでずっと、きみに渡したいと言っていたんだ、渡せてよかった」

 そう言って冠を渡されました。男性はおばあちゃんの息子だったのです。

「毎日、きみの話を楽しそうにしていたよ。母の相手をしてくれてありがとう」

 男性はそう言って、幼い私に頭を下げてくれましたが、お礼を言うのは私の方でした。おばあちゃんがいなければ、孤独に押しつぶされていたに違いありません。あれから、シロツメクサの咲く季節になると、冠を編むのが習慣になりました。今年もベランダに飾っています。天国のおばあちゃんが見ていてくれることを祈って…。

※女性セブン2017年6月15日号

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