同社が設置している飲料自販機の側面にレンタル傘を収納できるBOXを取りつけ、鉄道会社(近畿日本鉄道)に長期間保管されていた「忘れもの傘」のリサイクル品を地域住民に無償で貸し出すというサービスだ。大阪、京都、奈良、和歌山エリア内の自販機約130台で延べ2000本以上の傘を貸し出したところ、返却率は7割を記録(2016年6~9月の検証)したという。
ダイドーのレンタル傘サービスが成功している秘密は何か。同社コーポレートコミュニケーション部の担当者に聞いた。
──そもそも「レンタルアンブレラ」を始めたきっかけは?
「2015年の会社創立40周年を機に社員のチャレンジアイデアを募集し、自販機への飲料補充を行なう大阪市内担当の営業マンが提案したことがきっかけです。本人が日中作業をしている際、急な雨で困っている人を見かけることがあり、街中にある自販機で何かお役に立てないかと考えたとのことです。
当社は国内飲料事業における自販機の売り上げが8割以上(業界平均は約3割)と高く、自販機を中心としたビジネスを展開しているため、自販機を通じて地域の皆様に貢献したいと考え、この提案を実現させることにしました」
──実際にレンタル傘を使用した人の反応は?
「『助かりました』というお礼の手紙つきで傘が返却されていたこともありますし、自販機設置先様からも『いい取り組みだね』と好評をいただいております。
また、『借りた傘の返し場所が分からなくなった』とか『借りた傘が壊れてしまった。どうすればよいか』といった問い合わせをいただくこともあり、次の利用者の事も考えながらご活用いただけていると思います」
──各地でレンタル傘サービスが廃止に追い込まれる中、なぜダイドーだけ70%の返却率を達成できたのか。
「当社のサービスはビニール傘ではなく、繰り返し使える品質の傘を提供し、その傘に『DyDo』のロゴを大きくデザインするなど加工していることが一因と考えています。
また、展開初年度の経験を活かし、事業所の敷地内や地元の方がよく通る商店街など、利用された方が返しやすい場所を中心に展開していることも要因ではないかと思います。めったに訪れない先で傘を借りると返却することが大変だったり、土地勘がなければどこで借りたかも分からなくなってしまうため、適切な場所選定を心掛けています」
レンタル傘サービス成功のポイントは、借りたままにしていると“罪悪感”の増す品質の高さ、長期間さしていると目立つ大きなブランドロゴ、そして地域住民が頻繁に通る場所に返却場所を設定する──といったところか。
今後、同社は関西での実績を活かし、関東エリアや愛知県エリアにも範囲を拡大。名古屋鉄道や西武鉄道、東京急行電鉄の協力も得て、最大340台の自販機でレンタル傘サービスを広げていく方針だ。
だが、先行する関西エリアでも約3割の利用者が未返却なのは事実。サービスエリアの拡大に伴い、7割の返却率が維持できる保証はない。前出の担当者は、借りた傘を返していない人に向け、こんなメッセージを送る。
「当社のレンタルアンブレラは特に返却期間を設けておりませんが、なるべく多くの方のお役に立ちたいと考えておりますので、この記事を見られて長期レンタルされていることを思い出された方は、ぜひお近くのレンタルアンブレラBOX付自販機にご返却お願いします!」
ちなみに、ダイドーに協力する鉄道4社の「忘れもの傘」の合計は、年間20万本以上(2016年実績)あり、そのうち持ち主に返却できる割合は約2割しかないという。まずは、モノを大切に長く使う習慣を取り戻さなければ、無償レンタルの仕組みは一向に根付かず、盗られていくばかりだろう。