7月下旬、群馬県桐生市。わたらせ渓谷鉄道・水沼駅近くのキャンプ場に、未就学児から小6の子供たち15人が集結した。『自然から学ぼう──「食べる」までの7ケ月』と題されたキャンプ活動の一環で、都会から子供たちと親が参加。その場に現れたのは、山の中で?年以上の自給自足生活をした「洞窟オジさん」だった──。
「いいかぁ、撃つぞぉ」。オジさんが弓矢の弦に指をかけ、ジリジリとゆっくり後ろに引く。これ以上、引き切れないところまで引っ張りに引っ張って…ビュンッ! 目にもとまらぬ速さで、矢が30m先の的に突き刺さる。
「うわ、すげえ。マジかっ!?」
後方から遠巻きに見ていた子供たちが一斉にオジさんに駆け寄っていく。それまで半信半疑でオジさんを見ていた子供たちの目の色が、明らかに変わった。「“洞窟オジさん”って、マジすげえ…」。たった1本の矢で、オジさんは子供らの心を射止めた──。
「洞窟オジさん」こと加村一馬さん(70才)は、両親の虐待から逃れ、13才で家出。生まれ故郷・群馬県や足尾銅山の洞窟をはじめ、栃木や新潟などを転々とし、43年間にわたってサバイバル生活を送った。
(人目を避け、昆虫や小動物、獣などを食し、洞窟などを寝ぐらにして歳月を重ねた詳細は『洞窟オジさん』〈小学館文庫〉に詳しい)
オジさんは、生きるために矢を射て、動物を捕えてきた。自らが生き抜くためという緊迫した状況の中で身につけたサバイバル術だが、シンプルにして原始的な、生命と直結したその行為は子供たちの本能をおおいに刺激したようだ。
このキャンプを主催し、オジさんを講師として招いた任意団体・トリプター代表の深須布美子さんも感嘆する。
「竹を割いて器用に細工し、弓矢を作ったり、空の色や木々の様子・風の動きなど、自然をつぶさに観察し、天気がどう変わるかを洞察したり、樹木になる実が食せるか判断し、その食べ頃を見極めたり…野生を生きた加村さんのサバイバル術は、子供たちにとってすべてが驚きで、想像を超えるものでした」
もっとも、当のオジさんは、至極のんびりした笑顔で語る。
「山ん中でボーッとしてたら、のたれ死ぬか、獣に食われちまうから。…でも、そうだなぁ…うん、人里で暮らしてても同じかもな。自分からがんばらなきゃ、死なないまでも、苦労ばっかりするかもな」
子供たちは目を輝かせながら、大きくうなずいていた。
取材・文/祓川 学 撮影/関谷知幸
※女性セブン2017年8月24・31日号