「チームの同僚が夜遅くまで働いていたら『残業代も出ないので私は帰ります』とは言いにくいし、会社に残業代を請求しようものなら『成果も出せない半人前のくせにカネだけは一人前に要求するのか!』と逆に非難されかねない。
そんなリスクが生じるくらいなら、自分が我慢して努力するしかないという自己責任意識が強くなり、上司や会社に従順でいたほうが波風が立たないと考えてしまうのです。しかし、そうして都合よく会社に酷使され続ければ、いずれ心身が悲鳴をあげてしまいます」
そうなる前に会社を辞めようにも、脅迫まがいの妨害工作で辞められない場合もあるという。溝上氏が続ける。
「退職を願い出ると『辞めるのは卑怯』『社会人として失格』などと執拗になじられたり、仕事で失敗したミスの損害賠償を請求すると脅されたり、ひどい場合では転職先の会社に悪口を言って妨害されるケースもあります」
ここまでくると労働法の範疇を超えた罪が問われそうだが、いずれにせよ、働き手は自分の身を守るためにも、時に会社と対峙するぐらいの気構えを持つべきだろう。溝上氏もいう。
「いまや高度成長期のように定年まで雇用が保障され、福利厚生など手厚い処遇をしてくれる時代ではありません。いつまでも素直で従順な働き方をしていると、会社に『理不尽な要求をしても文句ひとつ言わない人材』と思われ、ますます未払い残業を強いられる結果にもなりかねません。
会社から不利益な扱いを受けないためにも、労働者として当然の権利意識を持つことが必要です。会社の就業規則や賃金・労働時間、休日、それに退職や解雇に伴う労働法の基本的なルールは“武装”のために知っておくべきです」
決して会社に縛られない働き手の“意識改革”はどこまで進むのか──。