芸能

地下アイドルの「いじめ体験率」はなぜ一般人の約5倍なのか

一般人のいじめ体験率が低いことの方に驚いた姫乃たまさん

 何人いるかわからないほど多いと言われる地下アイドル。どんな実態なのかあまり知られていないその世界を、本人たちへのアンケートを実施して、地下アイドルでライターの姫乃たまさんが『職業としての地下アイドル』(朝日新書)にまとめました。そこで反響が大きかったデータのひとつ、いじめ体験の高さと、姫乃さん自身がいじめ体験を告白したことで再認識した、地下アイドルがいじめ体験を告白しがちな理由について考えました。

 * * *
 いまでも母校の前を通るたび、「刑務所みたいだ」と思います。辛気臭い校舎や、気が合うわけでもない人たちが地域ごとにざっくり集められているところも。みんなで同じ制服を着なければならない中学校での生活は、私の人生における刑期でした。看守である教師とはわかり合うことがなく、生徒たちは校則を盾に監視し合っていました。そして少しでも息苦しさを見せた弱者は、狭い空間で攻撃の対象になってしまうのです。

 まさに攻撃の対象であった私は……などと書いていると、「また地下アイドルのいじめ告白か」と思われそうですが、たしかに地下アイドルの女性に取材をすると、いじめられた体験や、友達が少なかった思い出などがよく語られます。私自身も地下アイドルになって8年が経ち、どんな学生時代を過ごしていたか聞かれる機会が増えて、いじめられた体験について話すようになりました。『職業としての地下アイドル』にまとめて執筆してからは、自身の体験を文章にしたり、取材で話したりする機会がますます増えています。

 しかし、公の場でいじめについて話す以前から、「同じような経験をしていて、学校生活が辛かった」「学校を辞めてしまった」という地下アイドルの女性と、楽屋などで話す機会がよくありました。地下アイドルにはいじめの経験者や、学校で肩身の狭い思いをする人が多いようです。

 私が書籍でいじめ体験を明かしたのは、担当編集者に「人生の中で憂鬱になってから、憂鬱を抜け出すまでの過程を書いてほしい」と言われて、改めて憂鬱の種を思い出したからです。入学してすぐ先輩から「生意気」と目をつけられ、そのせいで同級生の中でも浮いてしまい、教室移動から戻ってきたら机に「死ね」と書かれていて、ストレスで全身が膿んでただれてしまった体で、楽しい青春なんてこの世のどこにあるのか、存在するのかすらわかりませんでした。頼まれたら断れない性格もあって、そんな過去を求められるまま文章にしたのです。

 それまでは辛いことを思い出したくない気持ちもありましたが、私はこの学校生活しか体験していないため、これがいじめなのかどうか理解していませんでした。しかし、改めて体験を文章にして以来、ファンの人たちからは気遣いの言葉ばかりかけてもらっています。

「そういう傷があることを知って、もっと気を遣わないといけないと思った」という声が最も多くて、少し恥ずかしいような、気を遣わせてしまって申し訳ないような気持ちがしています。

「明るい人だと思ってたから意外だった」と驚く声もありましたが、決して私の体験を拒否するわけではなく、辛かったことも受け止めてくれて、いまの自分が優しい世界にいることを改めて実感しました。積極的なきっかけではありませんでしたが、いじめ体験を話したこと、文章に書いたことで、いまの自分が昔とは違う場所にいる幸せを再確認できたのは良かったと思っています。

 地下アイドルにいじめの体験者が多いことは、地下アイドルとして活動してきた8年間で感覚的に理解していましたが、『職業としての地下アイドル』を執筆するにあたって、現役の地下アイドルに実施したアンケートと、一般の若者を対象にしたアンケート(内閣府発表の「平成25年度 我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」)の結果を照らし合わせたことで、実態が明らかになりました。

「あなたはいじめられたことがありますか?」という質問に対して「いじめられたことがある」と回答した地下アイドルは52.1%と約半数で、一般の若者は11.7%だったのです。

 反対に「いじめられたことはない」と答えた地下アイドルは19.1%で、一般の若者は61.6%でした。明確にいじめられた自覚がなくても、多少なりともそういう経験をしたと感じている地下アイドルを含めると、いじめの経験者が八割にも昇ります。

 しかし私が驚いたのは、どちらかというと、地下アイドルのいじめ経験が多いことではなく、一般の若者のいじめ経験率の低さでした。16歳でいまの活動を初めてから、学校の友人よりも地下アイドルと接する時間の方が長かったので、いつの間にか感覚が麻痺していたようです。つくづくマイノリティな世界にいるのだなあと思います。

 では、なぜ地下アイドルの世界にはいじめの体験者が多く入ってきて、さらにそれを告白できるようになるのでしょうか。

 被害の渦中にある人は、あまりいじめについて語りません。私もそうでした。学校に味方がいなかったのと、親族に心配をかけることも、外で学校のことを思い出すこともしたくなかったからです。そして中学生の私に、学校と自宅以外の居場所はありませんでした。

 人に話せない傷を抱えている時は、ほかの世界に行きたい願望はあっても、いじめによって自信を喪失しているので、なかなか行動に移せません。どこに行っても自分は受け入れてもらえない気がするし、ほかの世界でやり直そうとしていることが知られたら、生意気だと思われてまたいじめられるかもしれないからです。

 しかし、地下アイドルの世界には、なんとなく足を踏み入れた女性たちが、いじめについて話せるようになる環境が揃っています。

 まず、傷を負っていることを茶化したり、見下したりする風潮がないのです。雑誌の取材などでアイドルがいじめ体験を告白すると、「またか」「ファンに媚びを売るために話しているんじゃないか」といった目でみられることも珍しくありません。外野から否定的なコメントが投げられる一方で、周囲が同じ体験をしてきている地下アイドルの世界では、傷を負った人たちがなんとなく事情を理解できるため、肯定的に受け止め合うことができて、自然といじめの体験について話す機会ができます。

 また、地下アイドルは自分をアピールする職業でもあるので、多かれ少なかれ自身のキャラクターを設定する必要があります。なりたい自分を目指して活動する地下アイドルの世界では、自分のキャラクターを作って努力していることに誰も目くじらを立てません。いじめられた自分から抜け出そうとしている人を、また貶めようとする空気がないのです。

 そして、地下アイドルの世界がこうした女性たちの受け皿になっているのは、物事を多様な見方で楽しめるファンの人たちが集まっているおかげです。

関連記事

トピックス

父親で精神科医の田村修容疑者(SNSより)
「供述に信用できない部分も…」ススキノ事件・田村修被告に執行猶予判決、求刑懲役10年を大幅に下回ったワケ
NEWSポストセブン
3つの出版社から計4冊の書籍が発売された佳子さま(時事通信フォト)
「眞子さんにメッセージを送られているのでは」佳子さま(30)のワイン系ツイードジャケットに込められた“特別な想い”《お二人の思い出の場でお召しに》
週刊ポスト
再び頂点を掴めるのか(大谷翔平/時事通信フォト)
【MLB開幕・ドジャース連覇への道のり】早々に地区優勝を決めてもポストシーズンでの“ドジャース病”を危惧する声 ワールドシリーズで立ちはだかるのは大型補強のレッドソックスか
週刊ポスト
「W復帰」の可能性も囁かれる(時事通信フォト)
《ダウンタウン“W復帰”の可能性》浜田雅功の休養が松本人志のネット復帰計画に与える影響は?「夏頃にはコンビとしてアクションを起こすのでは」との指摘
週刊ポスト
自殺教唆の疑いで逮捕された濱田淑恵容疑者(62)
【独占入手】女占い師の自殺教唆事件で亡くなった男性の長男が手記「200万円の預金通帳を取り上げられ…」「学費と生活費をストップ」、さらに「突然、親子の縁を切る」 警察に真相解明も求める
NEWSポストセブン
2023年12月に亡くなった八代亜紀さん
《前代未聞のトラブル》八代亜紀さん、発売予定の追悼アルバムの特典に“若い頃に撮影した私的な写真”が封入 重大なプライバシー侵害の可能性
女性セブン
旭琉會二代目会長の襲名盃に独占潜入した。参加者はすべて総長クラス以上の幹部たちだ(撮影/鈴木智彦。以下同)
《親子盃を交わして…》沖縄の指定暴力団・旭琉會「襲名式」に潜入 古い慣習を守る儀式の一部始終、警察キャリアも激高した沖縄ヤクザの暴力性とは
NEWSポストセブン
濱田淑恵容疑者の様々な犯罪が明るみに
《男性2人に自殺教唆》自称占い師・濱田淑恵容疑者が被害者と結んでいた“8000万円豪邸の死因贈与契約” 被害者が購入した白い豪邸の所有権が、容疑者の親族に移っていた
週刊ポスト
キルト展で三浦百恵さんの作品を見入ったことがある紀子さま(写真左/JMPA)
紀子さま、子育てが落ち着いてご自身の時間の使い方も変化 以前よりも増す“手芸熱”キルト展で三浦百恵さんの作品をじっくりと見入ったことも
女性セブン
被害者の「最上あい」こと佐藤愛里さん(左)と、高野健一容疑者の中学時代の卒業アルバム写真
〈リアルな“貢ぎ履歴”と“経済的困窮”〉「8万円弱の給与を即日引き落とし。口座残高が442円に」女性ライバー“最上あい”を刺殺した高野健一容疑者(42)の通帳記録…動機と関連か【高田馬場・刺殺】
NEWSポストセブン
緑の芝生に映えるチームカラーの青を基調としたユニフォーム
《横須賀から全国へ》16年ぶりの名門復活へ歩み始めた日産野球部、伊藤新監督が明かした意気込みとチーム作り「技術の日産ふさわしいチームに」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! マイナ免許証の恐ろしい重大リスクほか
「週刊ポスト」本日発売! マイナ免許証の恐ろしい重大リスクほか
NEWSポストセブン