昨今、体罰は絶対に避けるべきものであるとされている。しかし、舞台稽古という役者の世界ではその常識が通じない場面もあるようだ。
女優の大和田美帆(34才)は、2008年に故・蜷川幸雄さん演出の舞台『ガラスの仮面』で主人公の北島マヤ役を演じた。スパルタで知られる蜷川さんの指導は、大和田の想像以上に過酷だった。
「芝居の途中でまだせりふがあるのに止められて、『ヘタクソ! 役者やめちまえ!』『お前の代わりなんていくらでもいるんだよ!』と怒鳴られて、演技指導で髪の毛を引っ張られたこともありました。
それで稽古場で泣いていると、『泣いている暇があったら芝居しろ!』とまた怒鳴られる。精神的にはすごくつらかったけど、蜷川さんの厳しい言葉を聞くほど、“私は役者をやめたくない”という自分の本心に気づくことができました」(大和田)
今の世相なら、蜷川さんの指導は「パワハラだ」と批判されるかもしれない。だが大和田は厳しい指導の裏側に「期待」が潜んでいることを確信していた。
「『帰れ』と言われて本当に帰る子は、この世界では生きていけません。私は確かにボロクソ言われたけど、言われなくなったらおしまいだと思っていました。また、蜷川さんは叱った後に『ちゃんとご飯食べてるか』とか、こちらを気に掛ける言葉をかけてくださっていた。だから厳しい指導も、期待の裏返しだと信じて疑いませんでした」
傍から見たら体罰やシゴキだとしても、当の本人がどう受け止めるかで物事は大きく異なる。
それを体現する出来事が、2017年8月に東京・世田谷で行われた中学生向け体験学習のコンサート中に発生した。
この時、バンドを指導していたジャズトランペット奏者の日野皓正氏(75才)が注意してもドラムソロをやめなかった男子中学生の髪をつかみ、往復ビンタをかましたのだ。著名ミュージシャンによる“暴行”にメディアは「一方的に暴力をふるった」「公衆の面前で体罰はひどい」と批判的に報じた。
だが実は日野氏と男子中学生は音楽を通じて親密な関係にあり、日野氏は誰よりも男子中学生に目をかけていた。後日、日野氏は「おれと彼の間には親子関係に近いものがあり、問題はない。生徒から謝罪があり、握手をして和解した」と語っている。
※女性セブン2018年1月4・11日号